――芥川也寸志は今年生誕100年です。いま改めて向井さんから見て、彼の音楽の魅力は?
向井 リズム感もそうですが、彼の作品にはめちゃくちゃ「品」がある。リズミカルでクールなのに、オーケストレーションが洗練されていて無駄がない。自分にはないものとして惹かれます。
もし彼の時代にクラブがあったら、また全然違う曲を書いたかもしれませんね。でも、彼のような先人がいて、その仕事が2025年の今に繋がっていくのは、嬉しいことです。
――芥川也寸志は1925年生まれ、89年(昭和最終年)没で、まさに「ザ・昭和」の人。映画『八つ墓村』(1977年公開、野村芳太郎監督、横溝正史原作)の音楽に象徴的に見られるように、昭和の日本の家父長制の暗さや血の呪いのようなものも冷徹に見つめていたように感じます。
向井 なるほど。私は平成5年生まれなので、自分の曲は「めっちゃ平成だな」って思うんです。
――平成っぽさ、とはどういうものですか?
向井 令和が「垢抜け」や「アンニュイ」さだとしたら、平成はもっとぶつかっていくエネルギー。パワフルで、感情がはっきりしている。日本のポップスにも応援歌が多かったように、「自分頑張れ」「みんなで頑張ろう」という暑苦しい感じ(笑)。ちょっとダサいかもしれないけど、そのダサさにパワーがある。今回の《クィーン》のテキストも、藝大で展示したら「ガールズバンドっぽくて平成味がすごい」と言われました。
――そうした同時代性に向き合うのは、クラシック音楽にとってひじょうに重要ですね。
向井 芥川さんの作品が時代と共に変化していったように、自分もそういう作曲家になりたい。今はパンクが好きで、クィアはライフワークですが、来年はもっとすごく優しい曲を書いているかもしれない。それは自分がどう生きていくかと連携しています。美術や映像とも繋がりながら、変化し続けていきたいと思っています。