田所　クラシック音楽が衰退していかないよう、どうすればよいか皆が考えていて、務川くんもその一人だと思う。僕は選曲にこだわるタイプなんです。有名な作品には、よく取り上げられるだけの理由がもちろんあるけれど、多くの知られざる名曲が埋もれたままになっているのは、あまりにも残念です。今年（23年8月）、日本でスヴェトラーノフの「12の前奏曲」を紹介できたのは嬉しかったな。

務川　日本初演でしょ？　すごいね。

田所 　今のスタンダードな演奏会の聴き方って、どんな曲なのか前もって勉強し、それがどのように演奏されるのかを聴くという形ですよね。しかし、僕はコンサートでお客様が、聴いた曲を「いいな、素敵だな」と思ってくださることがいちばん大切で、ピアニストの評価はその後にくればいいと思っているんです。

——これから挑戦したいレパートリーは？

務川　たくさんあるのですけれど。バッハやドイツ・ロマン派など、大好きだけど意外と多く取り上げる勇気のなかったものを、少しずつ増やしていきたい段階かも、と。

田所 　僕はヘンゼルトのエチュードを全曲録音したいと思っています。十度ばかりで、あり得ないほど難しいのですが（笑）。

–––務川さんはワインに詳しいと聞きました。務川さんが今日選んだのはボルドーの赤、ペサック・レオニャンでしたね。

務川　フランスに来て、多くのフランス人が「このワインはこうで……」とそれぞれ一家言を持っているのに驚きました。そんな姿を見ているうちに、ハマってしまった。パリでは遅い時間帯はあまり練習ができないので、夜はもう飲むしかない、というのもあったけど（笑）。

田所 　僕もワインは好きですが、務川くんほど詳しくはないので、彼と一緒に飲む時は「同じものを」と言うようにしています（笑）。

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インタビュー後、クリスマスの街の喧騒が嘘のように静かなセーヌ河の岸で最後のツーショットを。そして2人は肩を並べて、クリスマス・イヴのパリの街へ……。