音楽も重要な役割を担う『スリル・ミー』

——『スリル・ミー』は観劇後にあれこれ考察できるのも魅力の一つなのですが、お話をうかがって、その秘密が少し理解できた気がしました。次に音楽のお話を。犯罪を犯す二人の青年と共に「第3の共犯者」と呼ばれる“ピアノ”についてどう思いますか?

廣瀬 僕自身、この舞台の本当の主役はピアノじゃないかと思うときがあるんです。この物語の象徴と言える存在ですし、ときどき2人がピアノに操られているような感覚があるんです。ピアニストはすごくベテランの方。自分が舞台で間違ってもなんとか修正してくれるんじゃないかと勝手に信頼させてもらっています(笑)。

——ドラマティックな名曲ぞろいの『スリル・ミー』。特に聴かせどころの歌は?

廣瀬 いろんな意味で大変なのは、「僕の眼鏡/おとなしくしろ」。曲の中にアクションが多いので印象に残っています。毎回、自分に対する松也さんの煽り方も違うし、動きだす中で変化が見える曲です。そして「九十九年」は、この作品を観る前から知っていた曲で、あのメロディラインにはいつも感動します。歌うときの感情も、むかつくときもあれば悲しいときもあって、嬉しいときもある。本当にいろんな気持ちになれる曲です。

『スリル・ミー』舞台映像

——舞台で歌うとき、廣瀬さんが大切にしていることは?

廣瀬 今回の栗山さんのように、「歌は歌うな」というか、芝居として歌ってほしいという演出家もいますし、逆に、もっと歌っていいという方もいる。作品の作り手によって方向性が変わってくるのも毎回難しいところです。ただ僕は、あくまで歌はお芝居要素で、自分の感覚も含めて歌えばいいというのが合っています。そのほうが自分の中でアプローチの方法論が出てくるんです。誰が歌っても同じではなく、芝居として自分のパーソナルな部分を染み込ませた歌で評価されたら嬉しい。一人でも多くのお客さんを感動させられる歌を届けたいです。