ずっと鳴り続けるビートに台詞や歌を乗せる

——音楽についてはいかがですか? ノンストップで100分間、セリフや歌、ドラマが交錯している作品ですけど。

田代 100分間、ずっと音楽や音が常に鳴っています。拍手をもらうタイミングは、オープニングと真ん中の曲と最後だけで、あとは基本的に拍手をはさめない音楽の作りで、ずっとビートがある。ビートはカナダの民族楽器の打楽器で、管楽器はケルティックな楽器も使っていて、ビートの中にセリフや歌が入るので、そこが他のミュージカルとはまったく違います。

浦井 歌稽古を去年から少しずつやり始めていたおかげですが、たしかに上演1か月前くらいからの稽古では、とても追いつかなかったと今は思います。歌はもう感覚的に発するレベルでないと、ステージングや役作りに気が回らないくらい音が流れていて。ソロも短かったりして、常に人の音を聴いている必要がある。

田代 空港にいるみたいな感じですね。空港ってカオスで、いろんな会話が常に同時進行でさまざまな言語で飛び交っている。それが100分間で表現された作品なんです。

フラットで合宿のような楽しい稽古場

——飛行機の乗客と、彼らを献身的に受け入れる島の人々を、12人のスター俳優が熱演するのもみどころですね。稽古場の雰囲気は?

田代 誰が何と言ってもいい稽古場!(笑)。今回は森公美子さんを筆頭に、橋本さとしさん、石川禅さんという先輩方がすごくフレンドリーで。 若手は僕らになるのかな?

浦井 あとは加藤和樹とか、咲妃みゆちゃんもそう。

田代 貫禄のある吉原光夫さんも、この中では年齢だけは中堅ですね(笑)。そんな僕らにも思いきり羽を伸ばせる状態を作ってくださる。また、誰が主役という作品ではないから変な遠慮とかもないし、みんなフラットで楽しいですね。

浦井 本当に楽しい。部活の合宿みたいな雰囲気。毎日何時間も稽古をしているのに、みんなが仲良くて、笑いあってて。差し入れも、攻撃的にこれ食べて、あれ食べてって(笑)。

田代 今回、ほとんどのシーンに全員が出てるんです。他のミュージカルだと自分の出番がないときは1時間ほど休憩になることもあるけど、みんながずっと舞台上にいるから、休憩時間が本当に大切で。何かを食べないと脳が働かないので、みんなが差し入れもくださいます。

浦井 あと、この舞台はステージングが本当に緻密。セットというか、12脚の椅子やテーブルをほんの少しだけずらすことも多い。

田代 41場面あって、それを全部自分たちで作りながら演じているから。

浦井 毎回何度も稽古するけど、飛行機にある椅子がなくなって、「僕、座れない」みたいなことが多発する。だから、絶対に集中力を切らすことができない。

田代 演出チームも、最初は“これは稽古じゃなくて訓練だよ”って言っていた。今はまだ僕たちもそれらをインプットしてる時期だけど、それが80〜90%入ってきたら、そこからみんなの役作りとか、個性が際立ってくるのかなと。

——振付が完成して、12人の個性が炸裂するステージは、まさに圧巻ですね。

浦井 今ですら感動します。だって、すごいスターさんが目の前にいて、さらに後ろでコーラスをやっていたりもするんです。いつもは真ん中で歌ってる人も、この作品ではシーンを届けることだけに専念している。自分の歌とかそんなことは一切関係なしに。

そして、そんなふうに自分より人を思うみんなの清々しい気持ちが、ニューファンドランドのガンダー空港の避難所にいた人々の心の動きと繋がってステージングにも現れている。

舞台の見どころは全部!

——『カム フロム アウェイ』のタイトルは「遠くから来た人々」の意味。このタイトルも含めて、今の時代にこそ必要なメッセージを感動と共に届けてくれる本作で、お二人の心に特に響いたメッセージは?

浦井 正直、全部です!

田代 僕もいろいろあるけど、手を差し伸べることの大切さですね。どんな状況に置かれても無償の愛のような行動で、こんなに素敵な人生に繋がるんだって思わされるので。日本も震災がありますし、この9.11の被害者たちと同じような状況には、いつだってなりうる。そのときに自分は何ができるかなとか、実際にそうなったときに、お客さまがこの作品を思い出してくれて、自分の行動に何か変化をもたらしてくれたらいいなと思います。

浦井 悲しい別れとなってしまった人の姿を目の当たりにするとか……いろんな“遠い”ものが近づいてきたとき、みんなが人のための愛に溢れているときはすごくあたたかくて、人を想うと優しくなる。それこそ理想的だなって気づく作品だと思います。

公演情報
ミュージカル『カム・フロム・アウェイ』

日時: 2024年3月7日(木)~29日(金)

会場: 日生劇場

劇作・脚本・音楽・作詞: アイリーン・サンコフ、デイヴィッド・ヘイン 

演出: クリストファー・アシュリー

出演: 安蘭けい、石川禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子、柚希礼音、吉原光夫、上條駿、栗山絵美、湊陽奈、安福毅(五十音順)

問い合わせ: ホリプロチケットセンター03-3490-4949

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取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...