――「ONTOMO」2024.02.11 インタビューより
務川慧悟×田所光之マルセル〈前編〉ピアノの音色をめぐるダイアローグ
フランスを拠点に活動を続けているピアニスト・務川慧悟さんの言葉は、ピアノという楽器の奥深さと、演奏家にとっての終わりなき探求を端的に語っています。
「音」と「音色」は似ているようで、実はまったく異なるものです。鍵盤を叩けば誰でも「音」は出せますが、「音色」は演奏する人の心や身体を通じて初めて立ち上がるもの。務川さんは、まさにその「音色」に強くこだわり、自分だけの響きを追い求め続けています。
務川さんの演奏を聴いていると、まるで色彩が空間に広がっていくような感覚を覚えます。柔らかな光を帯びた音、深く沈み込むような低音、きらめくような高音──それらが絶妙なバランスで織り重なり、聴き手の心に染み込んでくるのです。
この対談の中で務川さんは、「音色」を生み出すための具体的な技術や身体の使い方についても、言葉を選びながら丁寧に語っています。「ピアノは色を発する楽器でなければならない」という言葉の裏には、それを実現するための演奏技術への飽くなき探究があるのです。
欧州で研鑽を積みながら精力的に演奏活動を続ける務川さん。その姿勢からは、ヨーロッパの伝統を継承しつつも、日本人ならではの繊細な美意識を大切にしていることが感じられます。
ピアノを学ぶ人にとっても、音楽を聴く私たちにとっても、音色の背景にあるピアニストの演奏哲学に想いを馳せることで、演奏を味わう喜びが深まります。
ひとつひとつの音に込められた表現の豊かさに耳を澄ませながら、務川さんが磨き続ける唯一無二の「音色」に、耳と心を澄ませてみたいと思います。
2021年世界三大コンクールの一つである、エリザベート王妃国際音楽コンクールにて第3位受賞。2019年にはフランスで最も権威のある、ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールにて第2位受賞。
長い歴史と伝統のある2つの国際コンクールの上位入賞で大きな注目を集め、現在、日本、ヨーロッパを拠点にソロ、室内楽と幅広く演奏活動を行っている。バロックから現代曲までレパートリーは幅広く、各時代、作曲家それぞれの様式美が追究された演奏、多彩な音色には定評がある。また現代ピアノのみならず、古楽器であるフォルテピアノでの奏法の研究にも取り組んでいる。
フランス留学後研究を深めている作曲家の一人である、モーリス・ラヴェルの作品を取り上げた「ラヴェルのピアノ作品全曲演奏」をテーマにした全6回のリサイタルを2017年シャネル・ピグマリオン・デイズにおいて開催。2022年はラヴェル全集をリリース。リリース記念の浜離宮朝日ホールでの4日間にわたるリサイタルは全て完売でコンサートを終える。リサイタルは毎年行っており、2023年は浜離宮朝日ホールで5日間の連続演奏会を行い22年に引き続き好評を得ている。
東京藝術大学を経て、2014年パリ国立高等音楽院に審査員満場一致の首席で合格し渡仏。ピアノ科第3課程を修了、室内楽科第1課程修了。現在は国内外での演奏活動の傍ら、フォルテピアノ科に在籍し研鑽を積んでいる。2022年、NOVA Recordより「ラヴェル:ピアノ作品全集」をリリース。
また、自身の編曲によるラヴェル『マ・メール・ロワ』ピアノソロ版の譜面をMuse Pressより出版している。
2024年、第33回出光音楽賞受賞。