コメディア・デラルテつながりのプログラム

2023年の<春のシリーズ>のタイトル「劇場の世界」もとても意外性がある。

仲道「この回で核となるベートーヴェンのピアノ・ソナタは第18番ですが、作品31としてまとめられた3曲のなかで唯一の4楽章形式です。しかも第2楽章にスケルツォ、第3楽章にメヌエットを置き、第4楽章はイタリアのタランテラ(※)を思わせるリズムを取り入れています。

※タランテラ:南イタリアの民族舞踊。急速な舞曲で、毒ぐもタランチュラにかまれたとき、この舞踊を踊ると治るという伝説があった。19世紀半ばに、6/8拍子の躍動的な舞曲としてショパンやリストの技巧的なピアノ曲に用いられた。

この作品にはイタリアの16世紀に生まれた即興的演劇である<コメディア・デラルテ>の影響があるとも言われています。ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第17番」はシェイクスピアの戯曲である『テンペスト』との関連が指摘されていますし、彼は後にオペラを書くためにたくさんの戯曲を読んでおり、劇場の世界に関心が深かったとも言われます。

それに関連するのはシューマンの《謝肉祭》です。この作品の中には〈パンタロンとコロンビーヌ〉という曲もありますが、そのふたりはコメディア・デラルテ(※)の登場人物。さらにはピエロやアルルカン(道化師)もこの作品には登場してきます。ベートーヴェンもシューマンも、コメディア・デラルテの形を借りて音楽で語るということへの関心が、こうした作品の中から浮かび上がってくるような感じがして、それを組み合わせたプログラミングにしてみました」

※コメディア・デラルテ:独立した序幕付きの3幕物の筋書きのある即興喜劇。仮面を着けるなどして類型化した10から12の登場人物が,見せ場を即興的な演技と役者独自の修辞法でつくりあげていく。