さて2024年は、2019年に続き2度目のニューイヤーコンサート登場となるティーレマンが指揮台に立つ。初登場の際には、彼の出身地である北東ドイツ(かつてのプロイセン)がかなり意識されたプログラムとなっていた。例えば、同演奏会ではあまり取り上げられていないワルツ《北海の風景》では、オペラで鍛えたティーレマンの手腕もあって、単なるダンス音楽の範疇にとどまらない、交響詩のようなうねりのある音楽が生まれていた。
J.シュトラウス2世:ワルツ《北海の風景》(2019年、クリスティアン・ティーレマン指揮)
対照的に今回のプログラムに目を通すと、そこまでティーレマンを意識したものとはなっていない模様。それでもティーレマンの十八番であり、現在ウィーン・フィルと交響曲全集の録音が進んでいるブルックナーの生誕200周年を記念し、彼の若書きのダンス音楽が取り上げられる。ブルックナーといえば、壮大な交響曲や敬虔な宗教曲の作曲家といったイメージが強いが、彼とてもオーストリアの地に根差した存在として、ダンス音楽と切っても切れない関係にあったことの何よりの証である。
そして、中立国オーストリアを代表するオーケストラとして、いわば音楽の親善大使としての役割を務めてきたウィーン・フィルならではの1曲が、ワルツ《全世界のために》。ベートーヴェンの「第九」(あるいはそのテキストとなったシラーの『歓喜に寄す』)を彷彿させるタイトルは、さまざまな紛争や困難に明け暮れる世界に対する、音楽を通じた平和のメッセージに他ならない。
2023年に3度目の登場を果たしたウェルザー=メスト曰く、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに再登場することほど、指揮者にとって喜ばしく、また緊張するものはないとの由。ティーレマンにとって2度目の指揮となるこの演奏会では、果たしてどのような音楽が生まれるのだろう。