女性作曲家の作品に象徴されるウィーン・フィルの「今」

ニューイヤーコンサート初登場となるいくつかの曲の中でも要注目なのが、コンスタンツェ・ガイガー(1835〜90)作曲《フェルディナント・ワルツ》。ガイガーは19世紀半ば、天才少女ピアニストとして話題を呼び、作曲活動も展開するものの、やがて忘却の彼方に葬られてしまった人物だ。

そんな忘れられた天才の再発見、しかもジェンダー平等の世相を反映して、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでは初めて女性作曲家の作品が取り上げられる。かつて男性しか入団できなかったのとは対照的に、最近では女性も次々と正式メンバーに加わりつつある、ウィーン・フィルの「今」を示す1曲だ。

コンスタンツェ・ガイガー(1835〜90)
ウィーン出身のピアニスト、作曲家。作曲家の父の元に生まれ、6歳のときにはすでにピアニストとしてコンサートに出演するなど、早くから才能を見出された

また、ウィーン・フィルとニューイヤーコンサートの繋がりということでいえば、ワルツ《オーストリアの村燕》、ワルツ《加速度》、《ジプシー男爵》序曲が目を引く。これらの曲目は、ニューイヤーコンサートの定番というだけにとどまらず、カルロス・クライバー(1930〜2004)やヘルベルト・フォン・カラヤン(1908〜89)が指揮をし、伝説的な名演となった1900年代末のニューイヤーコンサートを彷彿させるものだからだ。

しかもムーティ自身、カラヤンに重用され、クライバーと親しかったことを考えると、これは自らの尊敬する先達あるいは仲間に捧げられた、彼自身のオマージュということもできる。

クライバー指揮による1992年のニューイヤーコンサート。3曲目にワルツ《オーストリアの村燕》、5曲目に《ジプシー男爵》序曲が入っている