それでも、音楽がもつ人をインスパイアする力を人々に理解してもらうことは、容易ではない。今年になって、米国では全米芸術基金として予定されていた補助金が、一夜にしてすべてキャンセルされてしまったことは記憶に新しい。
「(芸術の力のようなものは)言葉でなかなか伝えられるものではないと思うんです。結局のところ、大切なのは、人々がインスピレーションを受ける『機会』を作ることだと思います。
NYO-USAだけでなく、私たちが学校や刑務所で行なっている活動も、多くの人の人生を変えています。それは、人々を音楽の道に進ませることではなく、『可能性の窓』を開くことが目的なのです。心動かされるものを、人々と分かち合いたい、そうした機会を提供したいと思うのです。
NYO-USAでは、参加者の多くが最後に別れを告げるとき、涙を流します。彼らの人生でもっとも素晴らしい経験の一つになっているからです。それを私たちが提供できたということは、大きな意味を持ちます」
とりわけ自分の周りに音楽を愛する同世代が少ない地域から来たユースにとって、NYO-USAは「仲間」と出会う得難い機会となる。
NYO-USAでは、将来、スコアの管理やリサーチを行なうライブラリアン、作曲家、オーケストラのマネージメントを目指すユースも、毎年数名メンバーとして迎えている。
「演奏家であれば、他の音楽家と出会い、つながる機会がずっと多いですよね。でもライブラリアンや作曲家は、基本的に一人で過ごすことが多い、孤独な仕事です。そんな人たちにとって、情熱あふれる音楽家たちと一緒に時間を過ごすことは、大きな刺激になるのです。
高校生の作曲家にとって、自作をオーケストラに演奏してもらう機会はそうそうありませんし、音楽のビジネス的な側面を見たいユースにとっても実に興味深い体験になります。彼らは皆、ツアーにも同行します」
「それから忘れてはならないのは、LSOでも経験したことですが、教育プログラムに関わった人たちは皆、自分の仕事を以前よりもずっと楽しめるようになることです。
教育に関わることで、誰かの人生に直接良い影響を与えることになり、彼ら自身の人生も豊かになるのです。NYO-USAオールスターズを指揮したヤニック・ネゼ=セガンも、自分が音楽を始めた理由を思い出したと言っていました」