これらすべての始まりは、ギリンソン氏のプロデューサーとしてのビジョンにあるわけだが、氏はプロデューサー、芸術監督、総監督にとって何が重要と考えているのだろうか?
「価値観は人によってさまざまですし、私には自分が信じていることしか言えません。自分が大切だと思うこと、信じられることをやるしかありません。
私にとってまず第一の使命は、あらゆる方法で音楽の未来を支えることです。音楽が単に生き残るのではなく、発展、繁栄する存在であってほしい。そしてそれが、できるだけ多くの人に開かれていて、社会において真の意味で影響を与える力を持つことです。それには私が、そして音楽が、どのように『貢献』できるかということも関わってきます。
そして好奇心を刺激することもひじょうに重要だと思っています。私たちのプロジェクトは、問いを投げかけることを中心としています。アインシュタインが言っていたように、『好奇心は知識より重要』なのです。何がほんとうに大切なのかを見つけるためには、好奇心が不可欠です。すでに用意された答えを調べるだけとか、型通りのルートを辿るだけではダメなんです。常にすべてに疑問を持ち、何も当然のこととは思わないことです。
人生は、いつも発見の『旅』のようなものです。私が知っている偉大な芸術家たちは、常にこの旅を歩み、決して到達することはありません。いつだって新しい発見があります。だから、もし『これで十分だ』と思ったなら、それは終焉です。そこにはもう成長はありません」
カーネギーホールは、常設アンサンブルを持たないことによって、毎シーズンの出発点が固定されることなく、自由なプログラムを選べる立場にあるという。世界中の優れたアーティストとともに、自由な「探検家」であることが、カーネギーホールをカーネギーホールたらしめているといえる。
最後に、ギリンソン氏にとって1970年代から特別な存在であるという、日本について語ってもらった。
「日本には、これまでに35回は訪れていると思います。私は日本が大好きで、日本文化も大好きです。日本文化はアメリカ人にとって、もっと知り、もっと理解すべき大切なものだと思います。
そして日本は、アメリカが世界の中で持つ二国間関係の中でも、たぶんもっとも重要なパートナーだと思います。ですから、アメリカ人にはもっと日本を知ってもらい、理解してもらいたい。加えて、日本人が持っている『質へのこだわり』『完璧さへの追求』『他者への思いやり』といった価値観は、アメリカ人が学ぶべき大切なものだと思います。
それから、アメリカのユースオーケストラが日本で演奏することにも意義があります。音楽への愛を共有し、日本の若者たちがアメリカの優秀な若者たちとつながることができるのです」