――勝山さんは、サントリーホールのオルガンに特別な想いをお持ちだそうですね。
勝山 この楽器は「愛されている楽器」だといつも感じます。弾く人によって楽器は育っていくものですが、サントリーホールのオルガンは、世界中の素晴らしいオルガニストたちに弾かれて、大切に育てられてきたんだな、という幸福感があります。
初めてこのオルガンの前に座るときは、その巨大さに圧倒されて戦いのようになってしまうこともあるのですが、こちらが心を開いて委ねると、ちゃんと応えてくれる。良い楽器は、いつも多くのことを教えてくれます。
リハーサルの際、ステージマネージャーの方が「勝山さんのために3番の鍵(メモリーキー)、置いとくね」と言ってくださることがあるんです。その鍵を差し込むと登録した音色が蘇ってきて、この瞬間だけ、あの巨大な楽器とホール全体が「私のもの」になる。
いつでももらえる鍵ではないからこそ、毎回「これが最後かもしれない」という気持ちで、愛しさを込めて弾いています。演奏が終わると、またね、と撫でて帰りたくなるくらい、ほんとうに愛しい楽器です。