――佐々木さんは指揮・ナビゲーターとして、この公演で何を伝えたいですか?
佐々木 まずは、オルガンの魅力を、音だけではなくて、サントリーホールの一部としてあるオルガンの存在を、皆さんに知っていただきたいですね。
オルガンは、どんな楽器よりも、機能的にあらゆる音色を出せます。今回はイギリス音楽で固めていますが、それぞれの曲が作られた時代も違うし、キャラクターもいろいろで、オールラウンドな魅力があるということも伝えたい。
金管、打楽器、合唱と、編成が次々に変わっていきます。オルガンが他の楽器と組み合わさることで、どんな響きの変化が起きるのか。その面白さを存分に楽しんでいただきたいです。
もちろん、吹奏楽ファンの方にはぜひ聴きに来てほしいですね。今回共演する金管と打楽器の奏者は、日本の第一線で活躍するプレイヤーばかりです。
とくに宗教曲というジャンルで、吹奏楽が合唱やオルガンと共演する機会は多くはありません。吹奏楽というと「鳴らす」というイメージがあるかもしれませんが、彼らの演奏は、響きの豊かさや音色の多彩さといった、吹奏楽がもつ無限の可能性を教えてくれるはずです。
――最後に、オルガンの世界への「お誘いの言葉」をお願いします。
勝山 まずは、サントリーホールの顔ともいえる、あの「すごい見た目」に、改めて驚きに来てください。建築物の一部だと思っていたものが、実は楽器だった、と。
そして、そこから生まれる音を、「天から降り注ぐシャワー」のように全身で浴びてほしい。それはまるで「神の声」を聴くような、他では決して味わえない体験です。
今回は、私が「これがいい!」と思うものを渾身の編曲で詰め込みました。きっと楽しんでいただけると思います。
お二人の言葉からは、英国音楽への深い探求心と、サントリーホールのオルガンへの愛情がひしひしと伝わってきた。やはり音楽作品も楽器も、人々に愛されてこそ成長していくものなのだ。
ところで、今回のコンサートのメインがジョン・ラター《グローリア》というのは、イギリス音楽好きとしては飛びつきたくなるような出来事である。
今や世界の合唱音楽界における屈指の人気作曲家ラターであるが、この曲は1974年に発表されて以来、ラターの国際的認知度をいちやく高めるきっかけとなった作品である。
ラター自身の言葉によると「ウォルトン、ストラヴィンスキー、プーランク、そしてグレゴリオ聖歌」の要素を取り入れた、壮大かつ親しみやすい曲調は、とくにアメリカで1970年代後半から80年代にかけて爆発的な勢いで人気を得て、各地での演奏が相次ぎ、その流れは今日まで絶えることなく続いている。この名作がサントリーホールで聴けるのだ。
そのポイントは、オルガンが合唱・金管・打楽器と調和しながら音楽を作っていくところにある。もちろんプログラム全体では、オルガンを軸としたさまざまな響きの妙が楽しめるようになっている。
今回大きく取り上げた「オルガンで奏でる名曲たち~英国音楽作品集」をはじめとする全5公演による、8月11日の「サントリーホール オルガン・フェスティバル」全体にもぜひご注目いただければと思う。
林田直樹
日時: 2025年8月11日(月・祝) 12:00開演(13:10終演予定)
会場:サントリーホール 大ホール
出演
オルガン:勝山雅世
打楽器:服部恵
指揮・ナビゲーター:佐々木新平
オルガン・フェスティバル スペシャル・ブラス・アンサンブル(トランペット:本間千也、ガルシア安藤真美子、奥山泰三、清川大介、トロンボーン:中川亜美、石村源海、鈴木崇弘、テューバ:池田侑太、ティンパニ:坂本雄希、打楽器:和田光世、服部恵)
新国立劇場合唱団
曲目
イギリス国歌:《国王陛下万歳》(オルガン:勝山雅世)
コープ/ルーファー(勝山雅世 編曲):《ハイランド・カテドラル》(オルガン:勝山雅世、トランペット:本間千也、ガルシア安藤真美子、奥山泰三、清川大介)
坂本日菜:《終わらない夜》より(オルガン:勝山雅世)
ウィーラン(勝山雅世 編曲):『リバーダンス』より《ファイヤーダンス》(オルガン:勝山雅世、打楽器:服部恵)
アイルランド民謡(近藤岳 編曲):《ロンドンデリーの歌》(オルガン:勝山雅世)
トッド:《コール・オブ・ウィスダム》(オルガン:勝山雅世、新国立劇場合唱団)
ラター:《グローリア》混声合唱、金管、打楽器、オルガンのための(オルガン:勝山雅世、オルガン・フェスティバル スペシャル・ブラス・アンサンブル、新国立劇場合唱団)
料金:S席4,500 A席3,500
公演詳細はこちら