19世紀末にモンマルトルで強烈なシャンソンが大流行

なぜモンマルトルか。実はモンマルトルには、シャンソン・レアリストと呼ばれる社会の現実を歌うシャンソンを提供するキャバレー(あるいはカフェコンセール)が多く存在したからです。

例えばロートレックのポスターで知られるアリスティド・ブリュアンは、19世紀末、「バティニョールじゃ、恋の値段は端金(中略)スケは天然痘でくたばっちまった」というような強烈な作品で大当たりしました。ブリュアンはロシュシュアール通りの文学・芸術キャバレー「シャ・ノワール」でデビューし、店のテーマ曲を作ったのち、1885年に「シャ・ノワール」が移転する際に独立して「ミルリトン」という自分の店を開きました。店を訪れた客に馴れ馴れしく話すどころか、時には激しく罵倒したと言います。客にはそれがエンターテインメントだったのです。一時期流行った監獄居酒屋のようなスリルでしょうか。

アリスティド・ブリュアン「バスティニョールにて」
ブリュアンは録音技術の黎明期に肉声を残した幸運なシャンソニエです。

「シャ・ノワール」のテーマ曲

ロートレック《アリスティド・ブリュアン》(1892年)
ルイ・アンクタン《ブリュアンの店:ミルリトンの内観》(1886~87年)