在籍してきたオーケストラ間の違い

――おっしゃる通りです。それでもヨーロッパには地域的な独自性と多様性があるでしょうし、たとえばバボラークさんが在籍されたチェコ・フィルとベルリン・フィルというと、やっぱり全然違うオーケストラですよね?

B 「チェコ・フィルはメンバーの95%がチェコ人です。それに対して、ベルリン・フィルは60%以上がドイツ人ではありません。そういった意味で考えると、そこが自ずと音色の違いにも現れる。特にベルリンは、歴史に翻弄された町であり、第二次世界大戦後、ロシアやアメリカ、そして世界中の人が入り乱れて入ってきて、さらには指揮者カラヤンのもたらした影響があり、非常に国際的なオーケストラです。

ヨーロッパは、国ごとというよりも、町ごとに違うと言った方がいいのかもしれませんね。ミュンヘン・フィルとベルリン・フィルだって、同じドイツでありながら全然個性が違うのと同じで。私からすると、日本にも東京、大阪、福岡、札幌など、それぞれ違った個性を感じますよ」

「独立したひとりの音楽家」となるために幅広い教育を受けてきた

――バボラークさんは、今、指揮者としてもご活躍されていますが、これまで在籍されたオーケストラの経験からどんなことを学びましたか?

B 「実は私が受けてきた教育は、オケのメンバーになるための教育ではなく、さまざまなスタイルを演奏する『独立したひとりの音楽家』となるための教育なのです。

午前中は小学校で勉強をして、午後から音楽院で個人レッスン。月水はブラスバンド。打楽器も大中小、本当にあらゆる大きさのドラムを打たせてもらいました。火曜日はホルンのアンサンブル、金曜日は管楽器の五重奏。別の日にはピアノ、ヴァイオリン、ホルンのトリオ。必ずしも純粋なクラシック音楽ばかりではなく、楽しくアレンジしたさまざまな音楽をやりました。さらにはスコアを見てその中にある物語性を読み取るとか、いろんな勉強をさせてもらったのです。

ただし私の場合、音楽教師の一家でしたが父が早く亡くなりまして、母子家庭でした。生活が非常に厳しく、チェコ・フィルやミュンヘン・フィル、ベルリン・フィルといったオーケストラに入ったのは、結局生活のために収入を得る必要があったからなんです。

今ではベルリン・フィルを辞めて、本当にひとりの独立した音楽家としてやっていけるようになって、とても幸せです。今はホルンと指揮と、それから教育者としての3つの柱を持っている、このコンビネーションが必要なんです」

昨年の「ラデク・バボラークの個展」における福川伸陽らとのホルン四重奏。今年はモーツァルトのホルン五重奏曲K.407も演奏される ©池上直哉/Naoya Ikegami SUNTORY HALL