指揮者でもっとも影響を受けたのは小澤征爾さん

――これまでに出会った指揮者たちからの影響は?

 「小澤征爾さんとの出会いが一番大きいですね。私のメンターが小澤さんなのです。彼は、水戸室内管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラを振るチャンスを与えてくれた。中でもベートーヴェン《第九》の第1、2楽章を私が指揮して、第3、4楽章を小澤さんが指揮するという、何事にも代えがたい素晴らしい経験をさせていただきました。あれは、指揮者としての私の経験のクライマックスの一つでした。

指揮は、プラハの音楽院で学んだこともありますが、一生マラソンを走り続けるのと同じで、毎日焦らずにひたすら勉強を続け、経験を積んでいくものです。それがさらなるエネルギーを生み出し、さらに先へ自分を進めてくれることなんです」

チェンバーミュージック・ガーデンでは、バボラークのホルンの超絶技巧をサントリーホール ブルーローズ(小ホール)の親密な空間で間近に体感できる(写真は昨年の「ラデク・バボラークの個展」から。ピアノ共演:菊池洋子) ©池上直哉/Naoya Ikegami SUNTORY HALL

室内楽では同じ魂を持つ者同士で音楽を分かち合える

――バボラークさんはこれまで室内楽をとても大切にしてこられました。オーケストラの中でホルンを演奏することと、室内楽の中でホルンを演奏することの根本的な違いとは何ですか?

B 「室内楽の演奏家とは、いわば『夢の職業』です。オーケストラにいると、何年もやっているうちに、同じレパートリーの繰り返しになりがちなところがあって……ただ指揮者が変わるだけみたいな感じなのです。そうした日常の中でソリストとしても、テクニックやエネルギーや向上心を常に維持するのは、正直難しいものがありますよ。

それに対して、室内楽を演奏するということは、シェアができるということなのです。友達と、あるいは生徒や若い人、同じ魂を持った人たち同士が、音楽に取り組むことができる。それこそが夢の職業なんです」

6月11日(日)「ラデク・バボラークの個展’23~若き音楽仲間とともに」でライヒャとタファネルの木管五重奏曲をバボラークとともに演奏する海外と日本の精鋭たち

瀧本実里(フルート)は、びわ湖国際フルートコンクール、東京音楽コンクール、日本音楽コンクールの3冠に輝き、いま最も勢いのあるフルーティストの一人 ©Makoto Kamiya
荒木奏美(オーボエ)は、国際オーボエコンクール・軽井沢でアジア勢で初の第1位。東京藝術大学在学中から今年3月まで東京交響楽団の首席奏者を務めた
コハーン・イシュトヴァーン(クラリネット)はハンガリー出身。リスト音楽院卒業後に活動拠点を日本に移し、東京音楽コンクールなど国内で参加したすべてのコンクールで第1位および副賞多数受賞
バボラークが「チェコの若手のなかでもっとも才能のある演奏家の一人」と称賛するミハエラ・シュパチュコヴァー(ファゴット)は2022年よりベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の首席ファゴット奏者に就任。今回パガニーニ「コンチェルティーノ」でバボラークとともにソロを務める ©Álfheiður Erla Guðmundsdóttir