作曲家のアンリ・デュティユーさんに生前お会いした際「シャンゼリゼ劇場でのストラヴィンスキーの新作初演の演奏会を聴いた後で楽屋に行ったら、そこでストラヴィンスキーとラヴェルが話をしていた」と、まるで昨日のことのようにおっしゃっていたのを覚えていますが……実はラヴェルさん、今年でなんと150歳を迎えられたのですね! おめでとうございます!!

精巧で変幻自在な音の万華鏡、眩い色彩のプリズム、哀しくも優しく心に染み入る旋律… …ラヴェルさんの紡ぎだす音の世界に魅せられ「この作品を弾いてみたい。こんな音楽を作ることが出来れば」と恋焦がれる幼少時を過ごした私にとっては、ラヴェルさんの音楽が存在しない世界など考えられません。

時代や国境を超え、数え切れない人々に希望を与えて下さりありがとうございます。貴方の不朽の名作《ボレロ》のように、人類がこれからも生命のサイクルを淡々と繰り返しつつも次第に発展を遂げ、協和する大伽藍の中で平和な世界を築き上げてゆけるよう、これからもどうぞお見守り下さいませ。

阿部加奈子

亀井聖矢/ピアニスト

ラヴェル《夜のガスパール》を演奏する亀井聖矢さん
わたしの1曲/《夜のガスパール》

ラヴェルらしい繊細な美しさや、独特な和声の揺らぎが詰まっていて、技術的にも表現的にも極限まで研ぎ澄まされた作品だと思います。

たとえば「絞首台」では、鐘の音としてBの音がずっと鳴り続けるというアイデアが用いられています。ただ、それが単なるアイデアにとどまらず、巧みな技法によってさまざまなハーモニーの中で展開されることで、不気味さと静けさ、死の気配がよりリアルに浮かび上がってくる。この情景描写の巧さは、ラヴェルならではだなと感じます。

「スカルボ」も、ただ難しいだけでなく、まさに悪魔が飛び回るような恐ろしい悪夢がありありと浮かんでくる作品です。演奏していると、いつの間にかその世界に飲み込まれ、自分自身がどんどん取り憑かれていくような感覚になる。技術的にもひじょうに高度ですが、この「没入感」こそが、この作品の最大の魅力だと思います。