——ロイヤル・オペラ・ハウスのオーケストラの音の特徴は、どのようなところにありますか?
山田 バレエを演奏している時はそこまででもないかもしれないですが、オペラを弾くときはとても繊細ですね。歌手を聴いて一緒に弾く役割なので、その「聴く」という能力が非常に高いと思います。
私はロイヤル・オペラ・ハウスに移る前にロイヤル・フィルにいたので、ステージ上とピットの中との違いが、身に染みて分かったんですね。ピットの中に入ったら、実はよりセンシティブに弾かなければいけない、というのを、入団してから学びました。歌手がとても弱く歌っている時などは、もうほとんど弓の毛一本ぐらいで弾いているような。その音量の差の出しかた、コントラストのつけかたが得意なことが、オーケストラの特徴の一つです。
あとは、オペラでもバレエでも、やっぱり悲劇やドラマが多いので、ドラマティックな音楽が得意だと思います。ロイヤル・オペラ・ハウスはかなりドライな劇場なので、私たちで響きを作っていく、ということが、今のオペラの音楽監督の(アントニオ・)パッパーノさんがいつも口を酸っぱくして言っていることなんです。
パッパーノが指揮するロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団が劇場で演奏する《フィガロの結婚》序曲
——金子さんは、ロイヤル・バレエやイギリスに縁の深い振付家の作品で、音の使い方の面でのロイヤルらしさ、イギリスらしさのようなものを感じられたことはありますか?
金子 どちらかというと、振付家ごとの違いのほうが見えると思います。フレデリック・アシュトン(1904〜1988/マクミランの一世代上にあたり、20世紀イギリスを代表するダンサー/振付家)とマクミランでもまったく違っていて、アシュトンの作品は、音一つに一つのステップ、と言って良いほど、音にステップがきっちりと収まるような動きがたくさんあります。ですので、覚えるのがとても難しいところもあるのですが、逆にいったん振り付けが体に入ると、その音楽とステップが一体化するので、体から離れない感じになります。数年経っても、音楽を聴いたらすぐ体が動くくらい。
一方、マクミランの作品はほぼ逆で、音楽にはまらないように動く方が、感情が現れやすかったりするんですね。特にマクミランの作品は、感情表現がとても多いのですが、音にはまりすぎるとその感情が現れづらいんです。