年間240億円を 売り上げる

——一般的とは思えない斬新な発想を音楽家とはいえ、老舗企業のトップが実践している点が新鮮です。改めて、龍角散という製薬会社の歩みを聞いてみたくなりました。

藤井 秋田藩の御典医を代々務めた藤井家の藤井玄淵(初代)が江戸時代中期に創薬、息子の玄信(第2代)が蘭学を学んで漢方処方に西洋生薬を取り入れて龍角散の原型を開発し、家伝薬としたのが始まりです。3代目の正亭治(しょうていじ)が現在の「龍角散」の処方の基礎を確立、明治維新後の1871年に東京の神田で藤井薬種店を開き、一般向け販売に乗り出しました。私は創業家直系の8代目に当たります。

約30年前の社長就任時には当時の売上40億円を超える負債もありましたが、「龍角散ののどすっきり飴」や「龍角散ダイレクト」、服薬補助ゼリー「らくらく服薬ゼリー」、「おくすり飲めたね」など、老舗ブランドを活用したのどに特化したマーケティングが功を奏し、窮地を脱しました。現在ではたった100人以下の正社員の規模で年間240億円を売り上げています。この規模は専門メーカーとしては最大規模で、これ以上は総合メーカーさんなので業態が異なります。

——マーケティングの極意はなんですか。

藤井 まずはオンリーワンに徹しライフスタイルの変化を見逃さず、古い製品であっても絶えず進化させることです。たとえば主力製品の「龍角散」シリーズは、30年前は大きく低迷していました。しかし、血中に移行して強制的に咳を止めるような製剤とは異なり、生薬成分が喉の粘膜を直接活性化する点に着目し、風邪に限らない日常的な喉ケアにコンセプトを変更した結果、大きく売上が伸長して、いまではのど薬でトップシェアとなりました。

「龍角散ののどすっきり飴」にしても弊社の医薬品工場で製造した独自のハーブパウダーを練り込んでいるところが大きなポイントで、これものど飴市場では25パーセント以上のトップシェアです。現有製品のコンセプトを変更して使用頻度を上げたり、季節変動を変更してオンシーズンを拡大したりするほうが、いかなる新製品を投入するより効果的であったということです。

もう一つのポイントは広告でしょう。だいたい年商の3分の1、2023年度は80億円を広告宣伝費に投じてきました。テレビのコマーシャルフィルム(CF)では私みずからプロデュース、フルートも演奏します。現在放映中の「龍角散ダイレクト」のCFはコロナ渦中に制作、私がファッシュの「フルートと2本のリコーダーのためのソナタ」の一部を吹いています。会社経営に全力で取り組み、余力で音楽をやっているのです。