オーケストラを扱うドラマであるだけに、登場する音楽も豊富だ。まず、毎話テーマとなる音楽が設けられており、その作品の特徴とストーリー展開が自然と関連している。
たとえば、第1話はベートーヴェンの「交響曲第5番《運命》」。「ダダダダーン」でお馴染みの作品であり、これはベートーヴェンが「このようにして運命の扉は開く」と表現したという逸話(信憑性は低い)があり、副題も後でつけられたもの。世では「ダダダダーン」の4音があまりにも知られすぎているわけだが、このフレーズはとくに第1楽章を通して何度も何度も登場する。まるで疑心暗鬼になって何かを否定し続けるかのように。
ドラマの中で、この「ダダダダーン」が何を表現しているか、団員それぞれが解釈してみるシーンがあった。ティンパニ奏者の内村菜々(久間田琳加)は、それを「自分を責める音」に聞こえると解釈した。本人はそれに悩んでいるようだったが、その解釈を俊平が肯定したことで、より良い演奏に。誰かにとっては何かを否定するように聞こえる「ダダダダーン」が、物語では肯定するモチーフに転換したのが興味深かった。
一方で娘の響は、《運命》を指揮する俊平をみて、過去の傷が蒸し返されてしまう。事件から5年経ち、歪んだまま凍結された親子関係が大きく動き出す“運命の扉の音”にも解釈できよう。
第4話でメインで取り上げられた作品は、ロッシーニのオペラ《セビリアの理髪師》。とある女性・ロジーナと、彼女を愛する伯爵、財産を目当てに彼女との結婚を目論み伯爵を邪魔する医師をめぐる喜劇だ。ロジーナと結ばれようと手を尽くす伯爵に、俊平の妻=響の母である志帆(石田ゆり子)に恋する晴見フィル楽団長・古谷(玉山鉄二)の姿がリンクする。《セビリアの理髪師》の序曲を演奏している古谷が、俊平に恋心がバレそうになり聴かせどころでパニックになる様子は、あの手この手を尽くしてもうまくいかない伯爵そのものだ。