——ラヴェルは“オーケストレーションの魔術師”と呼ばれるほど、優れたオーケストラ作品でも知られていますが、その感性はピアノ作品からも感じられますか?
S.C もちろんです。ラヴェルはピアノ曲をオーケストラ版に編曲していますが、それらを演奏するとき、オーケストラ版をたくさん聴くことがインスピレーションになりました。
前述のとおり、ラヴェルは自分が本当に表現したいことをよく理解していた人で、その多くがオーケストラの音のイメージだったと思います。例えば《クープランの墓》の「前奏曲」の冒頭では、オーボエの音を求めていたと思います。彼の音楽は全体的に、とてもオーケストラ的です。
《クープランの墓》~「前奏曲」のピアノ版とラヴェル自身によるオーケストラ編曲版
——どのような感覚が求められるのでしょうか?
S.C ラヴェルの音楽は、例えばショパンの作品とは大きく異なります。ショパンの音楽は、オーケストラ的というよりも、ピアノやオペラの要素がはっきりしていて、歌うようなメロディが多く含まれています。一方、ベートーヴェンやブラームス、そしてラヴェルの作品には、オーケストラ的な要素が際立つので、それを意識する必要があります。
——コンチェルトではまた異なる表現が求められますか?
S.C 大きな違いはありませんね。ふたたびショパンのコンチェルトを例に挙げると、ピアノが主役で、オーケストラは常に背景のような役割を果たします。どこかオペラのようでもあります。もちろん、オペラではオーケストラが主役になることもありますが、ショパンが愛したイタリア・オペラでは、オーケストラは主に歌手をサポートする役割を担っています。ですから、ショパンのコンチェルトを弾いているときは、プロの歌手になったような気持ちになります。
一方、ラヴェルのコンチェルトでは、オーケストラとピアノのあいだに多くの対話があります。例えば第2楽章では、長いピアノ・ソロの後、イングリッシュホルンが曲の終わりに同じフレーズを演奏し、ピアノはその伴奏を務めます。まるで室内楽を演奏しているような感覚です。