ラドゥ・ルプーのコンサートに、演奏家としてひとつの理想的なかたちを見た

22 憧れの音楽家は?

G ラドゥ・ルプーがほんとうに、すごく好きな演奏家でしたね……。

23 もっとも衝撃を受けたコンサートは?

G ああ……いろいろあるけど、パッといま思いつくのは、ウィーンで聴いたラドゥ・ルプーのコンサートです。すごく記憶に残っています。

――何年くらい前ですか?

G 2013年くらいだったかな。プログラムは、シューベルトの「ソナタ」や「即興曲」、フランクの「前奏曲とフーガ」……。

会場はムジークフェライン(ウィーン楽友協会)だったんですが、日本のホールみたいに演奏中真っ暗にならない。シャンデリアがずっとついていて、聴いている最中も、お客さんが動いたりするのが見える。日本みたいにみんなが静かに聴いていないから、ガヤガヤしていることが多いんです。

ところがあのときだけは、満席のウィーンのお客さんたちが、後にも先にもないくらい静まり返っていた。ああ、こういうアーティストを聴きに来る人たちというのがいるんだなあ、と思った。然るべき人たちが聴いているというか、みんながルプーの音楽を聴き逃さないようにしている雰囲気がなんとも言えなくて。それがすごく印象に残っていますね。

――なかなか、そういう体験ってないですよね。

 G うーん、なかなかない。でも、僕にとってそれはすごく、演奏家としてひとつの理想的なかたちのように思います。