そうした沼尻のコンセプトは、ソリストのキャスティングにも現れている。
沼尻「この演奏会では、現代音楽の専門家ではなく、普段はショパンやチャイコフスキーを演奏したり、ヴェルディやプッチーニで舞台に立っている若手をソリストに起用しました。
普段からお客様に親しみのあるソリストに演奏していただくことで、同時代の作品に対する心理的なハードルを下げることができますし、現代音楽に馴染みのない方が興味をもってくださるきっかけにもなるでしょう。今回ソリストを務めるヴァイオリンの成田達輝さんと石上真由子さん、ソプラノの砂田愛梨さん、ピアノの小林愛実さんは、古典でも現代音楽でも素晴らしい演奏を聴かせてくれる名手です。彼らの世代にはもう、古典と現代音楽を隔てる壁はありません。
昭和の昔は、どんなレパートリーにも分け隔てなく取り組んでいる演奏家が器用貧乏と揶揄されることもありました。野村克也の『生涯一捕手』のような生き方が好まれていたのですね。しかし、大谷翔平が二刀流で活躍している今、世の中の価値観も大きく変わったように思います」。
コンサートは三部で構成される。石上真由子をはじめとする実力ある若手演奏家たちが、カミーユ・ペパンと池田亮司という異なる背景を持つ作曲家の作品に取り組む第1部は、室内楽という凝縮された形態で“響き”そのものに向き合う時間となる。聴き手は音と空間との関係や、そこで生み出されるテクスチャの微細な変化に耳を澄ませる。演奏会はそこから声とオーケストラ、そして大規模な管弦楽作品へと世界が広がっていく。

第2部では三善晃「ソプラノと管弦楽のための《決闘》」と武満徹「ピアノと管弦楽のための《リヴァラン》」が取り上げられ、砂田愛梨と小林愛実がそれぞれ独奏を担当する。
そして第3部では、ショーン・シェパード「管弦楽のための《表現抽象主義》」(日本初演)とトーマス・アデス「ヴァイオリンと管弦楽のための《アリア(エア)》」(日本初演)が演奏会を締めくくり、アデス作品のソリストには成田達輝が登場する。
第2部と第3部に出演する沼尻には、特に自身が指揮する4作品について、想いを語ってもらった。第2部で取り上げられる武満と三善は、沼尻と直接交流を持った作曲家であり、とりわけ三善は沼尻の作曲の師でもある。