武満徹《リヴァラン》に小林愛実の音楽性が重なった

沼尻「武満さんは三善さんと同じように戦争を体験している世代ですが、創作においては特に晩年、人間同士の繋がりを描く、温かで柔らかい表現を追求しました。武満さんの音楽からは戦後日本の生気が聞こえてくるようです。

リヴァランを指揮するのは今回が初めてなのですが、2006年2月にサントリーホールで開催された『NHK交響楽団 武満徹メモリアルデー・コンサート』でウラディーミル・アシュケナージさんがこの作品を弾き振りした際に、副指揮者を務めた経験があります。本番ではピアノの脇に座って譜めくりもしました(笑)。このときに、作品をじっくりと勉強したので、いつか自分も指揮をしてみたいと思っていました。

今回小林愛実さんにソロをお願いしたのは、彼女の演奏するロマン派の作品、とりわけショパンを弾くときの音やスタイルが《リヴァラン》にとても合うと思ったからです。ショパン・コンクールの入賞者として、普段からショパンをたくさん弾いている小林さんの音楽性が、武満の作品でどのように作用するのか、とても楽しみです」。

©HOSOO CO., LTD.
小林愛実(ピアノ)

2021年10月、第18回ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞。7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビューを果たす。ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ、ソヒエフ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団など多数のオーケストラと共演。10年に14歳でEMI ClassicsよりCDデビュー。24年11月にCD『シューベルト:4つの即興曲 作品142、ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調、ロンド イ長調(連弾)他』をワーナークラシックスよりリリース。22年3月、第31回出光音楽賞受賞。

今後日本でも注目が高まる ショーン・シェパード

第3部のショーン・シェパードトーマス・アデスは、ともに今日の現代音楽界でとりわけ高く評価されている作曲家だ。シェパードは2027年度の「武満徹作曲賞」の審査員に内定しており、今後日本でも注目が高まることが予想される。

アデスも2020年度の「武満徹作曲賞」で審査員を務め、2021年1月に開催された同賞関連企画「トーマス・アデスの音楽」では、コロナ禍で来日が叶わなかったアデスに代わり、沼尻が指揮台に立った。その際にソリストを務めたのが成田達輝であり、録音を聴いたアデスは沼尻と成田の演奏を絶賛したと伝えられる。

そんなふたりが、今回アデスの作品で再共演を果たす。

沼尻「シェパードさんに関心を持ったのは、私が尊敬する指揮者のケント・ナガノさんが、彼の作品を高く評価していたからでした。今回のプログラムをサントリーホールのスタッフの皆さんと検討していた際、候補のなかにシェパードさんの作品を見つけて、これは良い機会だと迷わず選びました。

シェパードさんの音楽には奇を衒ったところがなく、今回演奏する《表現抽象主義》もある意味正統的なオーケストレーションが際立つ作品です。そこから生み出される品格あるサウンドは、サントリーホールの響きとも相性が良いと思います」。

©Jennifer Taylor
ショーン・シェパード(1979~ )

リノ(ネバダ州)出身。インディアナ大学でファゴットと作曲を学び、ジュリアード音楽院修士課程を経て、コーネル大学大学院博士課程でロバート・シエッラとスティーヴン・スタッキーに師事。2012年、ニューヨーク・フィルハーモニックのクラヴィス新進作曲家賞を受賞、その後アンサンブル・アンテルコンタンポランやWDR交響楽団により作品が初演されるなど、ヨーロッパでも知られるようになる。その音楽は饒舌さと生命力、都会的で洗練された感触を特徴とする。そうした美点を顕著に示すのが、各楽器群の音色を細やかに際立たせ、明快で立ち上がりのよい響きを作りだした小管弦楽のための『これらの特殊な事情』(09)と、色彩感のある和声も加えて、力動性と抒情性を両立させた管弦楽曲『表現抽象主義』(17)である。近年は内省的な雰囲気も採りいれて作風を多面化させており、23年、カーネギーホールにてケント・ナガノ指揮ハンブルク州立フィルハーモニー管弦楽団によって初演された独奏チェロと独唱、合唱を伴うオラトリオ『晴れた日に』はそうした傾向を表す一作である。同年、アメリカ芸術文学アカデミーのチャールズ・アイヴズ生活賞を受賞。2027年度武満徹作曲賞審査員。[平野貴俊]