男性がリードし、女性が応える――ミロンガの魅力は即興にあり

――女性から見て一緒に踊りたい男性とはどのような方ですか?

ナオ リズム感があるのはもちろんですけれど、それだけでなく、たくさんの曲を知っている人ですね。年齢はあまり気にしません。私もブエノスアイレスでは80歳のミロンゲーロ(ステージやショーではなく、ミロンガで踊ったり、教えたりするダンサー。女性はミロンゲーラ)と踊りましたし、有名なミロンゲーロの中には90歳の方もいらして、若い女性と一緒にデモンストレーションをされているのを見たこともあります。元気ですよね。

クリスチャン おじいさんたちは若い女性と踊るのが好きだからね(笑)。

ナオ いっぽう、おばあさんたちの中には「身体を支えてくれるから」という理由で若い男性と踊りたいという方も多いんですよ。世代を超えて一緒に楽しめるのもタンゴの大きな魅力だと思います。

――踊りは即興なんですか?

ナオ はい。ショーやステージで踊る場合には振り付けがありますが、ミロンガでは完全に即興です。そして、リードするのは男性の役目です。曲を聴いて、男性がその場でステップを作り、女性はそれに応えていく。なので、ミロンガでのダンスはよく会話に例えられますね。先ほどの話の続きになりますが、女性からすると、音楽に詳しくて、曲に合ったステップを投げかけてくれる男性と一緒に踊りたいんです。

クリスチャン そして男性は、自分の出したステップに素早く反応してくれて、合わせるのが上手い女性と踊りたい。自分が音楽に合わせて作りだす表現が、ダンスという相手とのボディ・ランゲージによって無限に膨らんでいく。そこがミロンガの面白さだと思うよ。

――再び初歩的な質問ですが、コンチネンタル・タンゴ(社交ダンスで踊られるタンゴ)とは違うんですよね?

ナオ アルゼンチン・タンゴとコンチネンタル・タンゴでは、ステップの仕方がまったく違うんです。

クリスチャン アブラッソ(男女の組み方)も違うよ。あと、コンチネンタル・タンゴは音楽もバンドネオンにこだわったりしていないよね。僕からしたら、バンドネオンが入ってないとタンゴじゃないし、踊るときにも気持ちが入らないな。

1929年のタンゴ楽団の写真。バンドネオンはドイツで発明され、アルゼンチンに持ち込まれた楽器。見た目はアコーディオンに似ているが、鍵盤がなく、蛇腹を両方から押し引きするなど、かなり違いが多い。