今の自分にはやりたい音楽がある

――ピアニストとして歩む道には、苦しいけれど通らなくてはならない所がたくさんあって、これまでにもいろいろなことを乗り越えてこられたのだろうと思います。12歳の若さでデビューしてからここまでを思い返す中で、そのピークはいつ頃でしたか?

牛田 そんなにたいしたことではないんですけれど(笑)、デビューしてからの7-8年間はそれなりに大変でしたね。まだ自分の中にこうしたいという明確な音楽があったわけではなかったので、どう弾いたらよいかわからないうえに、指も思ったように動きませんでした。

その意味で、逆に今はいちばん楽にやっています。やりたい音楽があって、それができるかどうかが自分にとってなにより大切で、認められるかどうかはあまり関係ないと思えるようになったのです。

ピアニストとして活動していると、よく「誰のために弾いているのですか?」と聞かれて考えたりするのですが、結局のところ最後は「自分のため」というところに落ち着くんですよね。

少し傲慢に聞こえるかもしれませんけれど、究極は、とにかく自分がやりたい音楽、自分が聴きたい音楽を求めることがすべて。人からの評価は後からついてくるものだし、あまり気にしないというのが正直なところなんです。バッハでさえ認められたのは亡くなってから長い年月が経った後だったのですから。

――いろいろなことを言われることもあるかもしれないけど、そういう考えがあるから乗り越えられるという。

牛田 うーん、もはや乗り越えているという意識もそんなにないんです。ただ淡々と進むしかないですしね。実際、乗り越えられてもいないし(笑)。

コンクールの調律を担当したスタインウェイUKのウルリヒ・ゲルハルツ氏と