音楽への向き合い方が根本的に変わった師との出会い

――ご自分の中で音楽への向き合い方が変わったきっかけというのはあるのですか?

牛田 15歳の頃に出会った、アルチョム・アガジャーノフ先生という、モスクワ音楽院でピアノと作曲を学んだ方のもとで学ぶようになったことはきっかけのひとつかもしれません

先生は、楽譜の読み方にはじまり、音楽理論から哲学のようなことまで深い知識と見識を持った、いわば「知の巨人」みたいな人で……いろいろなことを教えてくださいました。そこで一から形を作ってもらって、少しずつ自分が何をしたいのかが見えるようになっていきました。

――牛田さんの演奏を聴いてきたなかで、印象が変わったなと個人的に思ったのが、小林研一郎さん指揮、ハンガリー国立フィルと、リストの「死の舞踏」を弾いた演奏会なのですが……。

牛田 浜松国際ピアノコンクール前の2016年のことですから、まさにその少し前からアガジャーノフ先生のもとで集中的に学んでいますね!

最近、アガジャーノフ先生が書いた演奏芸術の教科書を翻訳、出版するプロジェクトに取り組んでいます。1,500ページもある本なのですが、先生の構築したメソッドを体系的にまとめてある、とても興味深い内容です。

セミファイナル会場のリーズ大学大ホールにて

――アガジャーノフ先生と出会ったあたりから精神的に解放された?

牛田 解放されたというよりも、自分が向かうべきところが見つかったという感覚でしょうか。

それまでは、なんとなく好きなように弾きながら先生の顔色を窺い、それをお客さんの前でも弾いて、自分も楽しければいいかという感じでした。

でも、アガジャーノフ先生のもとで学び、考えを知るにしたがって、音楽のあるべき姿とは何か、真の音楽とは何かということを考えるようになりました。すごく影響を受けましたね。