Q1. これまで弾いたなかで技術的にもっとも難しかった3作品を教えてください。

金川真弓さん

エルンスト:《夏の名残のバラ》による変奏曲
切ない歌詞の歌に、どんどん凝ったバリエーションが続きます。ほかの曲に出てこない、めったに練習しない奏法だけにとらわれず、歌の精神を保つのが難しいです!

バッハ:無伴奏のソナタのフーガ
ヴァイオリンは一度に最多で4音、長く伸ばすには2音しか弾けません。そして弦の位置と手の具合でその2音の音域も限られています。このような拘束の中で多旋律の作品を書き、そして聞こえるように弾く、どちらも最高の技術です。

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第15番Op. 132
ピアノや編成の大きいアンサンブルと弾くのに比べて、弦だけで細密に合わせられる音程とアーティキュレーションの可能性の深さ。曲への神経をほかの3人と常に分け合い、この作品の親密さと規模の大きさの組み合わせを一緒に作るのがほかにはない経験です。

周防亮介さん

エルンスト:《夏の名残のバラ》による変奏曲
私の中で超絶技巧曲としていちばん最初に思いつくのはこの曲です。 不可能に近いような技巧的なヴァリエーションが次々と現れますが、テーマの美しさを損なわないように弾くこともさらに難しく思います。

パガニーニ:《ゴッド・セイヴ・ザ・キング》による変奏曲
パガニーニ自身はどれほど手が大きく柔軟だったのだろうと思うほどに、パガニーニの作品の中でも極めて難しく感じます。この曲もヴァリエーションで展開されていきますが、手が疲れてくる後半で、右手で音を保ちながら左手のピチカートのオンパレードのヴァリエーションがあり、そこは音域的にも出にくい箇所もあってとくに難しく思います。

シュニトケ:《ア・パガニーニ》
パガニーニの《24のカプリス》が曲の途中でほとんど登場する面白い作品です。 私は好きな作品のひとつですが、この曲も手が大きいかよほど柔軟でないと弾くことが困難な気がします。

成田達輝さん

ブライアン・ファーニホウ:《シャコンヌ風間奏曲》
ファーニホウ独特のトータル・セリエリズムを発展させた語法は、あえて言うならば常人が易く弾けるものではなく、絶え間ない集中力と音符の長さの計算に、ひじょうに長い時間を要しました。

ホセ・マリア・サンチェス=ヴェルドゥ:「彼方なる水」謡とヴァイオリンのための3つの場面
20分以上ある作品ですが、ほぼ全編がpppで演奏されるため、精神的、肉体的、聴覚的にも極度の緊張を強いられるため演奏がたいへん難しかったです。

一柳慧:ヴァイオリン独奏のための「シーンズ」Ⅲ
発想が電子音楽的なので、ひじょうに長い音や、一柳慧「ピアノ・メディア」のような高密度の無窮動が中間部に置かれており、体力の限界に挑む作品。

ホセ・マリア・サンチェス=ヴェルドゥ:「彼方なる水」謡とヴァイオリンのための3つの場面

服部百音さん

エルンスト:《夏の名残のバラ》による変奏曲
右手がレガート、同時に左手は主旋律をピッチカートしながら伴奏のアルペジオもしなければならないバリエーションは、舞台の上では肝試し並の怖さです。

パガニーニ:《イ・パルピティ》
異常な指遣いでの重音の高速パッセージを強いられます。この曲の練習時間の配分を間違えて昨年私は腕を痛めました。

エルンスト:シューベルトの「魔王」による大奇想曲
魔王の台詞パートのハーモニクスで誘惑しながら、同時にピアノ伴奏のパートも演奏する箇所だけ難しさが魔王レベルです。