クラシックへの真摯な熱情

第1部は「Recital of Classic」。クラシック作品を中心としたピアノ伴奏のみの歌唱ステージ。ピアノは辻が演奏し、透明感がありつつ多彩に変化する音色で終始上原を支えた。プログラムはクラシックの声楽を学ぶ者であれば誰もが通る道ともいえるジョルダーニの《Caro mio ben(いとしき人よ)》で開始。会場中に響き渡る豊かな声量に驚くと同時に、艶があり、低音から高音までむらのない響きの美しさに魅了される。特にヘンデル《Ombra mai fu(オンブラ・マイ・フ)》における声のコントロールの精度の高さを実感した。さらに、声そのものがもつ力はもちろんだが、彼の歌唱を聴いていて、あらためて“言葉”に対するデリケートな感性の輝きにも気づかされる。歌詞の意味を丁寧に届けようとする強い意志、そして細かなニュアンスの変化が楽曲をより立体的に聴き手へと届けているのだ。特にトスティ《Ideale(理想の女)》は辻のピアノの音色と相まって、心の移ろいが鮮やかに伝わってきた。

後半2曲はカルディッロ《Core ’Ngrato (カタリ・カタリ/つれない心)》とデ・クルティス《Torna a Surriento(帰れソレントへ)》。響きに厚みが加わり、情熱的なカンツォーネ2曲を力強く歌い上げた。ここで驚かされるのが上原の音域の広さだ。もともと彼の声域はバリトンなのだが、今回歌っていた曲のキーはテノールのものが選ばれていた。しかしながら、まったく無理なくすべての音域を歌い上げており、バリトンの深みとテノールの輝かしさをあわせもった声を聴かせてくれたのである。上原はすでにプッチーニの《星は光りぬ》などテノールのオペラ・アリアなども歌っており、これからクラシックでさまざまな楽曲を自在に歌ってくれることであろう。

ピアノの辻 博之の奏でる音楽と高め合い、上原理生の艶やかな歌が会場を豊かに包み込む。