——そんな「総合格闘技」の中で、ご自身の歌舞伎や清元のご経験はどう活かされるとお考えですか。
右近 スサノオは、手に負えない暴れん坊でもあり、ヒーローでもあるという存在で、ある種、男そのもの、男の憧れのような人。「荒御魂」、つまり荒々しい側面が強調される神様なので、歌舞伎の荒事(歌舞伎の演技のひとつ。顔には隈取りを施し、衣裳や鬘なども誇張されたものを用いる)を織り交ぜた表現になるのではないかと考えています。
ただ、自分が培ってきたものを発揮したいとは思いますが、それを武器や強みにはしたくない。「これをやればいいでしょ」と上から差し出すのではなく、「こうするのはどうでしょう」と投げかけていきたいです。
——ヴァイオリンを担当する川井郁子さんのラジオ番組にご出演されたと伺いました。
右近 川井さんは、「静中の動」というか、すごく静かな景色の中に滝のような情熱が常に降り注いでいるような方でした。クラシックも歌舞伎も、古典をただ継承するだけではダメだという点では同じだと思うのですが、古典となっているものは新しい目で見る必要があるし、逆に新作は将来古典となるようなものを作らなければ、というこだわりを持っていらして、そのこだわりに僕は敬意を持っています。
——クラシックの世界では、長年「若者をいかに呼び込むのか」という
右近 観に来てくださった人にもう一度来てもらえるような充実した舞台を提供するというのが第一条件ではあるんですが、まず最初に足を運んでもらうためにはどうしたらいいか。僕は、自分が魅力的であることしかないと思うんです。
最初のきっかけとして「歌舞伎って面白そう」と思ってもらうのはなかなか難しいですが、「右近さんって面白そう」と思ってもらえれば、歌舞伎を観にくるきっかけになるんじゃないか。そして、そういう「気になる存在」がたくさん増えれば、その世界の認知度が上がっていくのではないでしょうか。
——非常に興味深いお話です。右近さんがいろいろなことに挑戦されるのも、そういう意識の表れなのでしょうか。
右近 ただ、よそのジャンルに行って名刺を渡してくるだけでは、そのジャンルで何十年とやってきている人に対して失礼だと思うんです。ジャンルに対するリスペクトが必要ですし、呼んでくださったことへの感謝も重要です。
僕が感じているのは、歌舞伎を離れてみて、自分がいかに歌舞伎に甘えて表現してきたのか、ということ。一役者として、他の人が通るべき道を通ってきていないんじゃないかと感じたんです。それは「恥をかく」ということなんですが、年齢的にもまだ「個」としてみてもらえる今こそ、どんどん恥をかくべきだと思っています。
——自分を追い込んでいらっしゃるんですね。
右近 どうでしょうか。ただ、本来の歌舞伎で大失敗をしたら「ほら、他のことをやってるからだ」と言われちゃいますから、そういう意味では緊張感はありますね。僕は、安全地帯にいると罪悪感を持ってしまうんです。危険地帯を進んでいくほうが、最終的には燃えます。
日時: 2022年12月30日(金)、31日(土)、2023年1月1日(日)
会場: 東京国際フォーラムB7
出演: 尾上右近、水夏希、川井郁子、吉井盛悟
石見神楽(MASUDAカグラボ)、尾上菊之丞
花柳喜衛文華、藤間京之助、若柳杏子、花柳まり草、林佑樹、田代誠(英哲風雲の会)
構成・演出: 尾上菊之丞
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