ソロと室内楽でピアノ演奏は大きく変わる

レッスンで指摘されることがとくに多かったのは音量や声部間のバランスに関することでした。つまるところピアノという楽器は、たとえば弦楽器などと比べて音量や音圧がかなり強いので、ソロの時と同じようなバランスで演奏してしまうと弦楽器の音をピアノが覆ってしまうのです。ピアノに座っていると弦楽器の音は(ホールの後ろなどで聴くときよりも)大きく聞こえるので、お互いに「より強い」音を出さなければと錯覚して音楽が崩壊してしまいがちです。

また室内楽作品では「メロディ、バス、内声」という3つの要素のうち、たいていいずれかが他楽器に移譲されているので、ソロの時のように「当然自分のパートにメロディとバスが必ずあるだろう」と油断して弾いていると、バランスが崩れ和声が機能しなくなることがあります。

そのほかにも、呼吸と正しいフレージング、リズム、拍の刻みかた、古典派の様式などなど多岐にわたり教えていただきました。どれも頭では理解したようなつもりになっているのですが、実際に楽器と合わせるといろいろな問題が起こるもので、先日ひばり弦楽四重奏団の方々とリハーサルをしたときにも、「ちょっとソリストみたいな音量になってますよ」と仰っていただき、桑田先生のことを思い出しました。先生からシュークリームの差し入れをいただいたり、先生と学生とで購買部にアイスクリームを買いに連れ立って行ったことなども懐かしい思い出です。

「手っ取り早い成功や結果を求めすぎるのはよくないよ。時間の無駄だと思うようなことがじつは人生でいちばん大事なんだから」という先生の言葉を、ことあるごとに思い出しています。