茶道の考え方は音楽とも通じ合う

第3弾は少しだけお茶を習いに行ったことを。茶道の特別な精神を学べたことがとても良い経験で、とくに千利休が確立した精神性、禅的な考え方が、一見すると遠い世界のような音楽の仕事をするうえでも大きな影響を与えてくれました。とくに「四規七則」の考え方を知ったとき、なにか自らを縛っていたものが解けたような感覚になったことを覚えています。

たとえば、ひととの調和に心を配ること(和)、ひとに対して敬意をもつこと(敬)、清らかな心を持ち続けること(清)、そのために努力することで、最終的に安定した精神状態(寂)に到達することができるという「和敬清寂(四規)」の考えかたは、本番前の緊張状態と向き合うときの考え方にいまでも応用しています。

また「七則」……茶は服のよきように点て(すべてに気を遣うこと)、炭は湯の沸くように置き(本質を見極めること)、花は野にあるように(命が宿っているように扱うこと、無駄を省くこと)、 夏は涼しく冬は温かに(どんな状況にも適応すること)、刻限は早めに(ゆとりと余裕をもつこと)、降らずとも傘の用意(充分な準備をすること)、相客に心せよ(相対するひとに心を寄せること)……の考え方は、普段の作品を勉強するときの考え方に通じるものがあります。

そしてなによりも私が共感したのは、この考え方を説いたときに千利休が語ったとされる「もしこれができたら、私はあなたの弟子になりましょう」という言葉でした。優れた哲学や理想の多くは必ずしも簡単に実現できるとは限らないものですが、そこに向かって努力することに意味を見出すところに、音楽と通じ合うものを感じたのです。まさにゲーテが語った「人生において重要なのは生きた結果ではなく、生きることそのものなのだ」という言葉のように。

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リーズ国際ピアノコンクールの期間中にあたたかいエールをくださった皆さま、さまざまなご助言をくださったみなさま、ありがとうございました。今回の原稿ではプログラムの話とか、リーズでのちょっとした思い出でも良い感じに書こうと思っていたのですが、思いのほかまとめるのに苦戦してしまって時間がかかりそうなので、次回にしてみたいと思います。皆さま、良い秋をお迎えください。

牛田智大
牛田智大

2018年第10回浜松国際ピアノコンクールにて第2位、併せてワルシャワ市長賞、聴衆賞を受賞。2019年第29回出光音楽賞受賞。1999年福島県いわき市生まれ。6歳まで...