ルバートとはなにか 霧島の自然の中で考えたこと
人気実力ともに若手を代表するピアニストの一人、牛田智大さんが、さまざまな音楽作品とともに過ごす日々のなかで感じていることや考えていること、聴き手と共有したいと思っていることなどを、大切な思い出やエピソードとともに綴ります。
暑い日が続きますが皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は今年45回目を迎える霧島国際音楽祭マスタークラスを受けるために鹿児島県霧島市に滞在しました。日本神話と深いつながりをもつ霧島神宮を擁し「(天上界から望める)霧に煙る海に浮かぶ島」が由来となって名づけられた霧島の地で、日本でもっとも歴史ある音楽祭のひとつが開催されるということに特別な意味を感じずにはいられないものです。
霧島の豊かな自然は、私に大きなインスピレーションを与えてくれました。とくに早朝に訪れた霧島神宮はどこか人間の世界から隔絶されたような壮大な景色が広がり、畏敬とでもいえばよいのか、言葉に表すのが難しいような感情がずっと記憶に残り続けています。なにか自らの手では動かすことのできない運命の力のようなものを感じさせられました。
思えば、13歳のころ初めて岡山県倉敷市を訪れたときにも同じような感情を持ったことがありました。定期的に教えにいらしているモスクワ音楽院の先生たちのマスタークラスにお誘いを受けたのですが、くらしき作陽大学のレッスン室から望める山々を目にしたとき、自らがこの地に引き寄せられたことがなにか必然であるかのように感じられたことを憶えています。
ほんとうに自然豊かで美しい場所で、私はここで13歳から19歳までの6年間を過ごし、たくさんの素晴らしい先生方との出会いが私の人生を変えてくれました。ここで学び始めた当初の私にはたくさんの課題があったわけですが、それらをただ指摘するだけでなく思考そのものを軌道修正するように、アプローチの方向性を変えながら長い目で向き合ってくださったことに本当に感謝しています。
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