作品を指揮の立場から見ると新しい洞察が得られる

——今度の来日では、紀尾井ホールでモーツァルトの「協奏曲第20番」とベートーヴェンの「協奏曲第4番」を演奏されます。

ホロデンコ ベートーヴェンの4番はかなり演奏しているので、弾いていてくつろいだ気持ちになるほどです(笑)。叙情的で親密な空気を生む冒頭のピアノ独奏は、当時革新的でした。すべてのピアノ音楽の中でもっとも重要なレガシーというべき作品です。

モーツァルトの20番もたびたび演奏してきました。ベートーヴェンが書いた最高のカデンツァがあるので、それを弾いてから、続くベートーヴェンに入っていく流れはおもしろいのではないかと選びました。

——これらの作品にアプローチし解釈するうえで、どんなことを感じていますか?

ホロデンコ モーツァルトは音楽史の発展に大きく貢献し、それが短い期間で成し遂げられたところがすばらしい。彼の音楽は5年も経てば次のステージに進んでいて、そのスピードはまるで光の速さです。信じられないような天才でした。

そしてこの10〜20年間で感じているのは、モーツァルトをゆっくり重く演奏する傾向になってきているということ。ブラームスの録音もテンポが遅くなっているといわれますが、同じことがモーツァルト、そしてベートーヴェンにも起きているように思います。

例えばバックハウスのベートーヴェン4番のある有名な録音は、第2楽章などすごくゆっくりです。深刻な音楽の印象を受け、そこには深い意味があると思いますが、私自身はもう少し軽いペースだといいのにと思います……ただ速いというのではなく。

ある作品を指揮の立場から見ると、新しい洞察が得られます。自分がおもしろいと思う形で演奏してみたいです。

ジェフスキー(1938年生まれのアメリカの作曲家、ピアニスト)の代表作「《不屈の民》による36の変奏曲」(1975)の原題は、「団結した民衆は決して敗れることはない」。ホロデンコの直近のアルバムにも収められ、『グラモフォン』誌のエディーターズ・チョイスを受賞している