《不屈の民》変奏曲は聴く人によって物語が変わる壮大な本のよう

——一方、豊洲シビックホールのリサイタルでは、ジェフスキーの「《不屈の民》変奏曲」も演奏されます。今この作品を選んだことにどんな想いがあるのか、多くの方が関心を持っていると思います。

ホロデンコ 私がこれを初めて舞台で弾いたのは2021年でしたが、その時、この曲にはとてつもないパワーがあり、聴衆に強い印象を残すのだと知りました。興味深かったのは、聴いたみなさんの感想です。この音楽は、誰が聴くかで見出される物語が変わるのです。好きな視点で読める、壮大な本のような作品です。

——では何か特定のメッセージを届けたいというより、それぞれに感じてほしいという?

ホロデンコ はい、この作品はチリの革命の歌からテーマがとられたという背景はありますが、最終的には、20世紀後半の人類の多岐にわたる経験を表現しているように思います。すべてのメッセージに対応できる要素があるので、自分が感じたい形で理解してよい。その意味で、録音よりもむしろライブパフォーマンスに向いた作品だと思っています。さまざまな解釈に対してオープンなので、一種現代アートのようなところもあります。

——口笛も出てきます。演奏の動画を拝見しましたが、ホロデンコさんは口笛もお上手ですね。

ホロデンコ あれは一度学校で勉強すればすぐにできるようになりますよ(笑)。というのは冗談ですが、この曲は技術的に難しいし、求められるものが多いですけれど、やりがいのある作品です。生で聴くことでどんな経験がもたらされるのか、どうぞ楽しみにしていてください。

公演情報
ヴァディム・ホロデンコ コンチェルト

日時:12月12日(火)19時

会場:紀尾井ホール

曲目:ベートーヴェン「《レオノーレ》序曲第3番」、モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番」、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」

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ヴァディム・ホロデンコ ピアノリサイタル

日時:12月5日19時

会場:豊洲シビックセンターホール

曲目:ベートーヴェン「創作主題による6つの変奏曲Op.34 ヘ長調」、ジェフスキー「《不屈の民》による36の変奏曲」

チケット取り扱い、問合せ

 

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...