単なる音楽コンクールではなく、精神的な体験

ワルシャワ生まれ、ワルシャワ育ちの男性は、本業はジャズドラマー。コンクール期間中、会場に来られない日にも、テレビや配信を通じて演奏をチェックし、友人たちと感想を語り合うといいます。

異なる音楽ジャンルで活動する彼が、ショパンコンクールにこれほど心を寄せるのはなぜなのでしょうか。

ポーランド伝統音楽にも精通するヤン・ムイナルスキさん

「ショパン・コンクールは本当に特別な存在なんです。ただ音楽のイベントというだけではありません。5年間ずっと世界中のファンに待ち続けられている、ひとつの大きな文化的イベントだと思います。例えるなら、オリンピックのようなものですね。ワルシャワ・フィルハーモニーの雰囲気も、いつものコンサートのときとはまったく違います。

ある意味で精神的な体験に近いというか……。時には、まるで教会にいるような感覚になるんです。作曲家、演奏者、そして聴衆——その三者がひとつに結びつくような瞬間があるんです」

その言葉には、ワルシャワの人々がこの祭典に寄せる深い敬意が表れています。さらに、ポーランド人としてマズルカをどう聴くのか尋ねると、リズムについて語ってくれました。

「ショパンが生涯愛したマズルカのリズムは、もともと農村で踊られていた民俗舞踊オベレクなどに由来します。オベレクは“くるりと回る”という意味で、足さばきや息づかいのなかに、音の揺らぎや重心の移ろいがあります。村で人々が踊る姿を見れば、マズルカの旋律とリズムの関係が一瞬でわかる。マズルカは、“生きたリズム”なんです」

ショパンのマズルカの根底にある民俗舞踊の息づかいを知ることが、ショパンの本当の響きを理解するための第一歩なのだといいます。ポーランド人としての誇りと、ポーランド音楽への深い愛が、彼の言葉から静かに伝わってきました。コンテスタントたちが演奏するマズルカも、微妙に揺れるテンポや呼吸の間合いが、聴く人の心をそっと掴み、民族の記憶とともに生きている“息づかいから生まれるリズム”を感じさせます。