国籍だけ見ても実に多様で、ハイドン組メンバーのルーツは10か国にもおよびます。地元・ウィーンっ子をはじめ、日本の子ども3名も活躍していますし、ウクライナから戦禍を逃れてウィーンにやってきたメンバーも。
一方、彼らの共通点はもちろん「歌が大好き」ということ。芸術監督のゲラルト・ヴィルト氏も「少年合唱団にとって、コンサートの場に立てるという喜びは何にも勝ります。彼らは歌が好きで、舞台で歌って音楽の喜びを届けたいという思いで、世界中からウィーン少年合唱団に集まってきたのですから」と語ります。
だからこそ、通常の演奏活動ができなかったコロナ禍の数年間は、彼らにとっても本当につらかったことでしょう。そんな苦難の日々を乗り越えた今回のプログラムには、日本初披露の曲も盛りだくさん。コロナ禍で始まったオンラインコンサートでの演奏曲「ユー・レイズ・ミー・アップ」や「ウェラーマン」(ニュージーランドの労働歌)なども日本で初の生演奏。
「ウェラーマン」
彼らの看板といえるシュトラウスのポルカにも、新たなレパートリー、ポルカ・フランセーズ《上機嫌》が加わりました。そして団の525周年(創立は1498年。日本では室町時代後半・戦国時代にあたります)にちなみ、モーツァルトの作品525……すなわち《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》のア・カペラ版にも挑みます。
ウィーン少年合唱団のメンバーはアウガルテン宮殿で寮生活を営み、宮殿内にある学校に通いながら演奏活動を行なっています。
「子どもたちの人格形成は、我々が非常に重要視していることです。ある研究調査によると、合唱団で歌う子どもは個人の能力が高くなるといいます。なぜなら合唱できれいなハーモニーを作るには、自分の声を聴きながら他の人の声を聴かなければならない。だから『他者の心に耳を傾ける』『他者に気を配る』ということを、子どもたちは合唱を通して自然に身に付けていきます。そうして合唱の中で、人間性やさまざまな能力が高められていくのだと考えています」とヴィルト氏。
その言葉の通り、ウィーン少年合唱団の卒業生たちは約30%がプロの歌手や音楽家になるほか、多種多様な職業に就いて世界中に羽ばたいているそう。ハイドン組のメンバーも、公演プログラム冊子にあるプロフィールに記された「将来の夢」はさまざま。「弁護士になりたい」「ピアノが弾けるパイロット」「宇宙飛行士」「建築家」「医師」……合唱を通して成長し、各々の将来の夢を描く少年たちの姿はとても逞しく映ります。
メンバーたちも自分の成長を感じているよう。日本出身のノブタカさん(14歳)は「以前の自分には弱い部分もありました。でも合唱団での活動の中で、人前で歌い、ファンの方々と交流したり、メンバーや友達と毎日関わったり……たくさんのコミュニケーションの中で、精神的にとても強くなれたと思います」と語り、「経済学の先生になりたい」という目標に邁進します。
アレクサンダーさん(11歳)も「団では多くのことを経験できる。両親と離れても大丈夫だということ、他の国を見ることができること……団での活動を通して、自信がすごく付いたと思います」。