――やはり音楽に対してつねに謙虚に、作曲家とその作品を尊重する演奏家の気持ちは、聴衆にも伝わるのだと思います。
M ワインの世界には「ワイン法」があります。どの国でも基本的な考えは同じなのですが、これは各産地の特徴を尊重するために定められているのです。ワイン製造家はその土地で収穫された葡萄を生かし、その土地の伝統的な製造方法を用い、その土地に寄り添ったワインを造る。「いかに産地の美点を引き出すか」に、製造家の理念や手腕が問われるのですね。これは作品と解釈者の関係に似ていると思うのです。
ピアノのソリストといわれる人は、その人自身がスターとして崇められる傾向があります。僕はマルタ・アルゲリッチやウラディミール・ホロヴィッツのようなピアニストにほんとうに魅了されます。彼らの演奏は真に“シューマン”、“シューベルト”でありながら、同時に“ホロヴィッツ”、“アルゲリッチ”が現れる。奇跡のような芸術です。
でも、僕は常に“良い脇役”であることが、本来の演奏家のあり方だと思っています。主役は作曲家、彼らの作品なくして、自分に価値はない。僕は作曲家の思いに肉薄し、彼らの人格に憑依できたら……といつも思っているのです。
