――《月に憑かれたピエロ》が1912年で、このプログラムにも前半にストラヴィンスキーがありますけど、《春の祭典》が1913年です。その後に第一次世界大戦(1914~18年)があって、あらゆるジャンルの芸術も変化しつつあった時期ですよね。
小菅 そうですね。カンディンスキーとか、チャップリンとか、シェーンベルクが関わっていたさまざまなアーティストもいましたし。
――時代の転換点を象徴する作品ですね。アルベール・ジロー原作、オットー・エーリヒ・ハルトレーベン独訳による詩を、シェーンベルクが再構成して7曲×3部構成の全21曲にまとめたわけですが、とにかく言葉の幻想がものすごいですよね。
小菅 言葉っていうのは、昔から――歌曲を楽器だけでやったりしたこともありましたし――私にとってのプロジェクトの中心でもあるんです。この曲の、歌でも語りでもない「シュプレッヒシュティンメ」というスタイルに興味があるというのと、いっけん非日常的な狂気の世界でも、実は、私たちのファンタジーの中には必ずあるものが、全部この曲に入っているんじゃないかと思ったのです。
シェーンべルクって、すごく感情的な音楽だと思うんです。難しそうに見えても、情熱的に訴えてくるものがある。この曲を勉強していても、そういう表現力を感じます。
――すごくよくわかります。ロマン派がどんどん爛熟して、濃厚になっていって、終着点に来て、ついにはその果実が落ちて、発酵を始めて、強いアルコールのようになったという感じに僕は思ってるんですけれど。
実際、この曲の第1曲で「月の光は目で飲むワイン」という意味の言葉が出てきますが、ほとんどの人は、そこで意味不明だと思って立ち止まっちゃうと思うんですよ。目でワインは飲めないよ……って(笑)。
小菅 ロジック的に考えちゃうとそうなんですけど(笑)。そういった言葉は全部、ある種のたとえになっていますから……。