「月と夜」をテーマにストラヴィンスキーやラヴェルを含めたプログラミング

小菅 今回のコンサートは、最後のシェーンベルクだけでなく、その前のストラヴィンスキーやラヴェルを含めたプログラム全体を、月と夜をテーマにして考えました。

ストラヴィンスキー「クラリネット独奏のための3つの小品より 第1番」は、実は昔ピエール・ブーレーズが《月に憑かれたピエロ》を演ったときに、最初にこの曲を使っているんですよ。導入として、ちょうどいいと思ったのです。

――それを吉田誠さんが演奏するというのは、素晴らしいアイディアですね。今回は演出的なことは何かされるのですか。

小菅 とくに凝った演出をしたいとは思っていません。それよりも1つひとつの楽器自体がよく語っていますから、とにかく全員一緒に室内楽的に演りたいですね。

2曲目のストラヴィンスキー「シェイクスピアの3つの歌」はだいぶ後の作品(1953年)ですが、シェーンベルクの《ピエロ》にストラヴィンスキーはすごくインスピレーションを受けているんです。《ピエロ》がなかったら、《兵士の物語》も生まれなかったかもしれない……。

吉田誠(よしだ・まこと)クラリネット&バス・クラリネット
パリ国立高等音楽院、ジュネーヴ国立高等音楽院で学ぶ。2014年「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」のソリストとしてシュミードルと共演。18年にウィグモアホールでデビューし、19年にはCMGでキュッヒル・クァルテットとブラームス:クラリネット五重奏曲を共演。国内外でリサイタルや室内楽公演を重ね、また多くの国際音楽祭やオーケストラにソリストとして招かれている。22年から園城寺での「おとの三井寺」プロジェクトの芸術監督を務める。録音ではソニーから『ブラームス:クラリネット・ソナタ(全曲)、シューマン:幻想小曲集ほか』をリリース。

「2016年ぐらいから何度も共演してきました。ブラームスのCDも一緒に録音しましたし。彼も言葉と音楽というものに興味を持っていて、すごく調べてくるんです。バス・クラリネットも最近吹くチャンスが色々あるらしくて、楽しみです」(小菅)
©Aurelien Tranchet

――なるほど、第一次世界大戦をはさんでいますが、時代の端境期に生まれた最小限のアンサンブルと語りという点で、《ピエロ》と《兵士の物語》は、強い親近関係にありますね。

小菅 今回プログラムを考えるときに、メゾ・ソプラノのミヒャエラ・ゼリンガーに相談したのですが、そこで、ストラヴィンスキー「シェイクスピアの3つの歌」と、ラヴェル「マダガスカル島民の歌」だったら、このメンバー編成でできるだろうという話になりました。

「シェイクスピアの3つの歌」も、語るようなところがあるし、ちょうどストラヴィンスキーも音列について考えていた時期なので、やはり《ピエロ》とは関係性がありますね。

ラヴェルの「マダガスカル島民の歌」は、本当に素晴らしい曲で、ずっと演りたいと思っていました。ラヴェルの他の作品と比べると、無調に近いし、びっくりするような不協和音があるんです。この原始的な世界は、月と夜にも関係しているし、やはりラヴェル自身もシェーンベルクに影響を受けていると思います。

ミヒャエラ・ゼリンガー(メゾ・ソプラノ)
2004年に歌手としての活動を始め、05年から10年にはウィーン国立歌劇場に在籍。以来、バイエルン州立歌劇場やベルリン・ドイツオペラ、リヨン国立歌劇場、ザルツブルク音楽祭などで、モーツァルト《フィガロの結婚》ケルビーノ、ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》ブランゲーネ、R. シュトラウス《ばらの騎士》オクタヴィアンなどの諸役で出演している。コンサートにも数多く出演し、シカゴ響やカメラータ・ザルツブルクなどと共演。モーツァルト「レクイエム」やベートーヴェン「第九」、ベルク「7つの初期の歌」などを歌っている。

「ウィーン国立歌劇場での《ばらの騎士》のオクタヴィアンや、《フィガロの結婚》のケルビーノとか、素晴らしいなと思っていて、ずっと連絡を取っていました。シューマンの歌曲集《リーダークライス》や、ベートーヴェンやブラームスの歌曲も一緒に演りました。大学の卒業論文が《月に憑かれたピエロ》で、コミカルな演技も上手な人なんです」(小菅)