小菅 今回のコンサートは、最後のシェーンベルクだけでなく、その前のストラヴィンスキーやラヴェルを含めたプログラム全体を、月と夜をテーマにして考えました。
ストラヴィンスキー「クラリネット独奏のための3つの小品より 第1番」は、実は昔ピエール・ブーレーズが《月に憑かれたピエロ》を演ったときに、最初にこの曲を使っているんですよ。導入として、ちょうどいいと思ったのです。
――それを吉田誠さんが演奏するというのは、素晴らしいアイディアですね。今回は演出的なことは何かされるのですか。
小菅 とくに凝った演出をしたいとは思っていません。それよりも1つひとつの楽器自体がよく語っていますから、とにかく全員一緒に室内楽的に演りたいですね。
2曲目のストラヴィンスキー「シェイクスピアの3つの歌」はだいぶ後の作品(1953年)ですが、シェーンベルクの《ピエロ》にストラヴィンスキーはすごくインスピレーションを受けているんです。《ピエロ》がなかったら、《兵士の物語》も生まれなかったかもしれない……。
――なるほど、第一次世界大戦をはさんでいますが、時代の端境期に生まれた最小限のアンサンブルと語りという点で、《ピエロ》と《兵士の物語》は、強い親近関係にありますね。
小菅 今回プログラムを考えるときに、メゾ・ソプラノのミヒャエラ・ゼリンガーに相談したのですが、そこで、ストラヴィンスキー「シェイクスピアの3つの歌」と、ラヴェル「マダガスカル島民の歌」だったら、このメンバー編成でできるだろうという話になりました。
「シェイクスピアの3つの歌」も、語るようなところがあるし、ちょうどストラヴィンスキーも音列について考えていた時期なので、やはり《ピエロ》とは関係性がありますね。
ラヴェルの「マダガスカル島民の歌」は、本当に素晴らしい曲で、ずっと演りたいと思っていました。ラヴェルの他の作品と比べると、無調に近いし、びっくりするような不協和音があるんです。この原始的な世界は、月と夜にも関係しているし、やはりラヴェル自身もシェーンベルクに影響を受けていると思います。