新しさの中にバッハやショパン、シューマンの姿も見える 

小菅 そして、ベルク「室内協奏曲」より第2楽章「アダージョ」を、ヴァイオリン、クラリネット、ピアノ用に作曲家自身が編曲したものを演奏します。とてもチャレンジングな、全員にとって大変な曲ですが、とくにヴァイオリンが大活躍するんです。

――そこで金川真弓さんがどんな演奏をするのかも楽しみですね。この「室内協奏曲」は何とも言えない濃厚な色気のある傑作で、ちょうどベルクがオペラ《ヴォツェック》を書いた前後の曲ですよね。《ヴォツェック》では月が血なまぐさい悲劇の象徴として扱われていますし。つい関連づけたくなりますね。

小菅 実は今回、《ヴォツェック》からも何か入れようかって話もあったくらいです。

金川真弓(かながわ・まゆみ)ヴァイオリン&ヴィオラ
2018年ロン゠ティボー国際コンクール第2位および最優秀協奏曲賞、19年チャイコフスキー国際コンクール第4位。ベルリン・コンツェルトハウス管、ロイヤル・フィル、プラハ放送響、マリインスキー劇場管、ドイツ・カンマーフィル、フィンランド放送響、ベルギー国立管、フランス国立ロワール管、モスクワ・フィル、N響はじめ全国のオーケストラと、ハンヌ・リントゥ、セバスティアン・ヴァイグレ、パスカル・ロフェ、カーチュン・ウォン、尾高忠明、秋山和慶、小泉和裕、井上道義、広上淳一などと共演。使用楽器は日本音楽財団貸与のストラディヴァリウス「ウィルへルミ」(1725年製)。

「前回のCMGで、海外から来る予定だったアーティストの代役で急遽引き受けてくれたんです。たくさんの日本人アーティストの中で、彼女は特別なものを持っているなってすごい衝撃でした。音楽だけでなくいろんな知識がある幅広い人です」(小菅)
©Victor Marin

小菅 今回のコンサートのテーマは月と夜ですが、そこには死だけでなく、アーティストの孤独、人間の感情を左右する力など、いろんな意味が込められていると思います。

女優が歌い語るシュプレッヒシュティンメと楽器の組み合わせを考えてこの曲をシェーンベルクは書いていますが、ピアニストの立場からすると、シューマンの《謝肉祭》の影響も受けているところがすごく面白くて。

――そういえば、どちらもピエロが出てくるし、小さな曲の連なりだし、ショパンのイメージが突然入ってくるところも同じですね。

ちなみに5曲目の「ショパンのワルツ」という曲、あれは具体的にショパンのどれかのワルツと関連があるんですか?

小菅 左手のアルペジオなどショパンのワルツの要素を使って、どこかパロディ的なところがあると思います。でも、ショパンだけではなくて、やはりバッハという存在がシェーンベルクにとっては大きいですね。

この曲の中に、平均律は入っているし、フーガも出てくるし。もちろん対位法も出てくる。そういう意味で、バッハをはじめ過去の作曲家を尊敬しながらも、新しいことを目指すということが込められていると思います。

1つひとつの楽器がシンボルとして出てくるのも興味深い。例えばフルートが月を表していたり、チェロがすごく感情的だったり。1つひとつの楽器が交感して、遊びも兼ねて、いろんな色彩を出しています。

クラウディオ・ボルケス(チェロ)
ペルー系ウルグアイ人の両親のもとドイツ生まれ。ペルガメンシコフに師事し、1995年にはジュネーヴ国際音楽コンクールに優勝。バレンボイム、エッシェンバッハ、ソヒエフらの指揮でライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、パリ管、ボストン響などと共演し、タングルウッド音楽祭やクレーメルが音楽監督を務めるバーゼル音楽祭「Les Musique」にも参加している。室内楽にも力を入れ、ヴィトマンらと共演。2017/18年シーズンよりヴィネンデン音楽祭の芸術監督を務めている。使用楽器は、バーデン゠ヴュルテンベルク州立銀行から贈られた「G. B. ロゲーリ」。

「樫本大進さんとトリオで日本ツアーも一緒にしているし、ソリストとしても大活躍しています。サントリー音楽賞受賞者コンサートでも樫本大進さんと共に出演してくれました。室内楽でも必ずスコア全体を把握しているし、《ピエロ》は何回もやっていて、大好きな曲だそうです」(小菅)
©Peter Adamik
ジョスラン・オブラン(フルート&ピッコロ)
フランス出身。リヨン国立高等音楽院でベルノルドに、フライブルクでニコレに学ぶ。2006年からリヨン国立管弦楽団の首席フルート奏者として世界的指揮者たちと共演するとともに、フランス国立管、トゥールーズ・キャピトル国立管、ケルン・ギュルツェニヒ管、フィルハーモニア管などに客演し、ソリストとしてもリヨン管をはじめ、イル゠ド゠フランス国立管やクラクフ・フィルなどとフルート協奏曲を演奏。室内楽でもティボーデやコープマンらと共演している。録音での最新盤はフィリップ・ゴーベールのフルート作品集。

「唯一初めてお会いする人なんですが、(吉田)誠くんと、フルートは誰がいいかなと話していて、この人は素晴らしいって紹介してもらったのです。《ピエロ》は大好きで、何回もやっているそうです」(小菅)
©Jean-Baptiste Millot