小菅 そして、ベルク「室内協奏曲」より第2楽章「アダージョ」を、ヴァイオリン、クラリネット、ピアノ用に作曲家自身が編曲したものを演奏します。とてもチャレンジングな、全員にとって大変な曲ですが、とくにヴァイオリンが大活躍するんです。
――そこで金川真弓さんがどんな演奏をするのかも楽しみですね。この「室内協奏曲」は何とも言えない濃厚な色気のある傑作で、ちょうどベルクがオペラ《ヴォツェック》を書いた前後の曲ですよね。《ヴォツェック》では月が血なまぐさい悲劇の象徴として扱われていますし。つい関連づけたくなりますね。
小菅 実は今回、《ヴォツェック》からも何か入れようかって話もあったくらいです。
小菅 今回のコンサートのテーマは月と夜ですが、そこには死だけでなく、アーティストの孤独、人間の感情を左右する力など、いろんな意味が込められていると思います。
女優が歌い語るシュプレッヒシュティンメと楽器の組み合わせを考えてこの曲をシェーンベルクは書いていますが、ピアニストの立場からすると、シューマンの《謝肉祭》の影響も受けているところがすごく面白くて。
――そういえば、どちらもピエロが出てくるし、小さな曲の連なりだし、ショパンのイメージが突然入ってくるところも同じですね。
ちなみに5曲目の「ショパンのワルツ」という曲、あれは具体的にショパンのどれかのワルツと関連があるんですか?
小菅 左手のアルペジオなどショパンのワルツの要素を使って、どこかパロディ的なところがあると思います。でも、ショパンだけではなくて、やはりバッハという存在がシェーンベルクにとっては大きいですね。
この曲の中に、平均律は入っているし、フーガも出てくるし。もちろん対位法も出てくる。そういう意味で、バッハをはじめ過去の作曲家を尊敬しながらも、新しいことを目指すということが込められていると思います。
1つひとつの楽器がシンボルとして出てくるのも興味深い。例えばフルートが月を表していたり、チェロがすごく感情的だったり。1つひとつの楽器が交感して、遊びも兼ねて、いろんな色彩を出しています。