――最近、推し音楽家を見つけてコンサートに行くという「推し文化」がクラシック界にも広がっています。それについてどう思いますか。
佐渡 それはすごくいいことだと思います。とくに、ピアノの世界はすごいですよね。僕も共演したことがある辻井伸行、角野隼斗、反田恭平、亀井聖矢などは、しっかりとファンがついています。ただ、推しはいいけれど、ほかの演奏家をまったく聞かないのは困ります。また、推す気持ちが強すぎると、熱狂的に全部の公演を聞いていたのに、突然行かなくなったりすることもあるでしょう。バランスを持って聞いてもらえたらうれしいですね。好きな音楽家にハマるというのは、心が動いたということですから、それは本当に素晴らしいことです。
――推しの作曲家、音楽家を見つける方法は何かありますか。
佐渡 僕は子どもの頃からクラシック音楽に関して、かなりませていたのですが、僕の経験でお話しします。中学生の頃には、ストラヴィンスキーはもちろん、武満徹とか、石井眞木とか邦人の作曲家まで興味を示して、レコードを買っていました。子どもの頃は壁がないですからね。ベートーヴェンの「運命」、「田園」から始まって、こんなにすごい交響曲を書いているのだから、第1番から聞いてみようとなる。ベートヴェン交響曲全集のレコードは高価だから、親に頼んで買ってもらいました。ボックス入りで特別感があって、うれしかったのを今でも覚えています。
小学校5年生の時に初めて一人で演奏会に行かせてもらえて、京都市交響楽団の定期会員になって、知らない曲もたくさん聞きました。当時はそうは思っていなかったけれど、いろいろ聞いてみようとする多少の努力も必要ですよね。あとはクラシック音楽が身近にあるということも大切なのかもしれません。子どもの頃のように、壁を作らずに好奇心を持って音楽に接してみるのがいいと思います。