――佐渡さんがコンサートをする際の基準は、小学5年生の自分が客席もいたら満足するかどうかだそうですが、やはり一人でコンサートに行き始めた頃が原点なのでしょうか。

佐渡 そうですね。小学5年生は僕の中で、ひとつのターニングポイントだと思います。親もゲームセンターに遊びに行くのは許さないけれど、音楽好きであってほしいという思いもあって、演奏会に行くのであればよろこんでチケットを買ってくれました。
一人で演奏会に行くのは、大人になったような気分で、ものすごく興奮するんですよ。通っていくうちに、楽屋がどこかとか、ここに行くとアーティストに会えるとか、だんだんわかってきて、それも楽しかった。実際に家じゅう、サインだらけでしたね。

いろいろな音楽を聞いてみることも必要

――佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサートや1万人の第九など、クラシックの裾野を広げるさまざまな取り組みをされています。どのような思いで音楽を届けていますか。

佐渡 クラシック音楽というのは、誰もが聞くものではないと心のどこかでは思っています。僕は兵庫県で仕事をしていることもあって、30年前の震災で多くの方々に助けていただいたから、ある種恩返しの意味も込めて、全国の被災地に行っています。被災地に心のビタミンを届けるつもりで。でも、ビタミン剤をみんなが飲むとは限らないわけですよね。そこも理解しているつもりです。
そのなかでも、僕らが来るのを待っていてくれる人がいる。震災で大変なことがあった時は涙が出なかったのに、音楽を聴いたら号泣したという方もいらっしゃる。音楽はとても不思議な力を持っているのです。それはクラシックだけとは思いません。僕も家や車の中では、ジャズを聴くことが多いですし。僕らの取り組みを通して、音楽を聴いてみようかなと思うきっかけになればうれしいです。

――クラシック音楽以外の音楽を聴くこともあるのですね。

佐渡 仕事上、やはりクラシックが多いですが、ジャズも聴きます。たとえば、キース・ジャレット、マイルス・デービス、ルイ・アームストロング、エラ・フィッツジェラルドあたり。ジャンルはこだわらないです。素晴らしいロックミュージシャンもその源流がクラシックだったりするので、いろいろな音楽を聴くことも必要でしょう。