読みもの
2020.06.25
飯田有抄のフォトエッセイ「暮らしのスキマに」File.14

芳しき徳島のすだちと、ゲーテの詩によるリストの歌曲

飯田有抄
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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先日、徳島に参りまして、たっぷりの「すだち」をいただいたのです。箱にぎっしりと詰まった、たくさんのすだちを見たとたん、なんでしょうね、ものすごく嬉しくなりました。 鮮やかなグリーンを目にするだけで、ふわっと元気になれます。

何にでも絞ったり、スライスを浮かべたりするだけで、食べ物も飲み物もすっきりワンランク上のフレッシュな味になる。すだちサイコー。

すだちと言えば、柑橘類なわけですが……と少々強引に持っていきますけれど、こんな素敵なリストの歌曲をご存知ですか?

「ミニヨンの歌 “ごぞんじですか、レモンの花咲く国”」S275

ゲーテの詩を用いて、リストが作った歌曲です。8分ほどの、これはもう傑作です。リストと言えば、技巧的なピアノ曲のイメージが広がりすぎている気がしますが、こんなに内省的で、柔らかく、音と音との間合いも芳しく響く歌曲を作っているんですね。

歌詞の一部を、森鴎外の訳で載せておきましょう。

レモンの木は花さき くらき林の中に

こがね色したる柑子〔かうじ〕は 枝もたわゝにみのり

青く晴れし空より しづやかに風吹き

ミルテの木はしづかに ラウレルの木は高く

くもにそびえて立てる国をしるやかなたへ

君と共にゆかまし

美しいですねぇ……

この曲、冒頭のピアノの分散和音は、すだちをギュッと絞る様子、そして注がれた冷たい飲み物で潤った喉が柔らかに歌う……なんだかそんなふうにも聴こえてきました。

飯田有抄
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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