レディ-・ガガ&ブラッドリー・クーパーの新コンビで、古典的名作『スター誕生』を素敵にリメイクした音楽映画!
4回目のリメイクとなる『A Star Is Born(スター誕生)』。いずれも男性スターに見出された無名の新人がスターダムへ登りつめていくというストーリー。12月21日公開された『アリー/スター誕生』は、レディ・ガガ & ブラッドリー・クーパー主演で早くから注目を集め、サウンドトラックは全米でもアルバムチャート1位を獲得している。
本作の見(聴き)どころは、なんといっても音楽。過去の『スタア誕生』の名曲も振り返りつつ、DIVA担当・東端哲也さんが熱くご紹介します! 正月映画はこれで決まり。
1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...
音楽面の完成度が群を抜いて素晴らしい!
音楽をテーマにした映画が花盛りのこの冬だが、レディー・ガガ主演×ブラッドリー・クーパー監督・主演の『アリー/ スター誕生』も絶対に観逃せない1本。本作は伝説のロックバンド、クイーンの伝記的映画『ボヘミアン・ラプソディ』や、不世出のオペラ歌手の真実に迫るドキュメンタリー映画『私は、マリア・カラス』のような実在の音楽家を描いた作品ではなく、音楽業界のバックステージを舞台とするフィクション。
そのため登場する楽曲の全ては書き下ろし……つまり観客にとってはどれも初めて耳にするものばかりだが、その分、音楽面での完成度は半端ない。スター誕生の決定的瞬間に夢があるし、業界の描き方もリアル。しかも劇中で激しく心を揺さぶられる数々のシーンすべてが「歌」の場面という究極の音楽映画なのだ。
まず素晴らしいのは、オスカー(アカデミー賞)に4度のノミネート経験を持ち、本作で監督デビューも飾ったブラッドリー・クーパーが、カントリー・ミュージック界の人気アーティスト役を熱演しているところ。1年以上にわたってヴォイス・トレーニングを受け、理想とするニール・ヤングを目指してギターを猛特訓し、パール・ジャム(アメリカのロックバンド)のエディ・ヴェダーからミュージシャンの極意を学んだという彼は、国民的人気を誇るジャクソン・メインの役柄そのものになりきっている。
しかもブラッドリーがルーカス・ネルソン(※カントリー界のリアル大物ウィリー・ネルソンの息子)の全面的なバックアップを得て書き上げた、〈ブラック・アイズ〉を始めとするジャクソンの持ち歌がどれも魅力的だ。
一方のレディー・ガガも、既にポップミュージック・シーンで揺るぎない地位を築き上げているカリスマでありながら、新人歌手のアリー役を好演している。特に彼女がジャクソンに導かれて、初めて大勢の聴衆の前で歌唱を披露するデュエット曲〈シャロウ~『アリー/ スター誕生』愛のうた〉が圧巻。「shallow(シャロウ)」とは「浅瀬」のことで、二人の恋の始まりを描いていると同時に、小さな世界から大海の深みへと戸惑いつつキャリアの一歩を踏み出した、アリーの強い意志を見事に表現していると思う。
過去に3回つくられている王道ラヴ・ストーリー
実は映画評などでも触れられているので、ご存じの方も多いと思うが『A Star Is Born』と呼ばれる映画は、今回の『アリー/ スター誕生』以前にも3本ある。いずれにも共通するプロットは、男性の大スターが無名の新人に才能を見出し、彼女を育て上げていく過程で2人は恋に落ちて夫婦となるのだが、女の方が成功への道を手にする一方で、男の方は身をもち崩していく……という悲しいラヴ・ストーリーだ。
1本目はジャネット・ゲイナー主演の『スタア誕生』(1937年)、2本目は『オズの魔法使』で知られるジョディ・ガーランドが新人女優役を演じたミュージカル仕立ての『スタア誕生』(1954年)。
そして3本目が、舞台を映画界から音楽業界に移し、歌姫バーブラ・ストライサンド&カントリー系ロック歌手のクリス・クリストファーソン主演でサントラ盤も大ヒットした『スター誕生』(1976年)。ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で最優秀作品賞、最優秀女優賞&男優賞を獲得。バーブラ作曲&ポール・ウィリアムズ作詞の〈Evergreen(スター誕生/愛のテーマ)〉がオスカー映画主題歌賞に輝き、グラミー賞でも最優秀歌曲賞などを受賞した。
『アリー/ スター誕生』はこの76年版を下敷きにリメイクしたものだが、40年以上の時を経て、いくつかの点で大きな進化を遂げていると思う……というか、76年版はヒット作ながら今、改めて観ると気になるところがいろいろと山積みなのだ。
とにかく、クリストファーソンが演じた大物ロック歌手、ジョン・ノーマン・ハワードのキャラクターが破天荒すぎる。日常的にアルコールとドラッグを摂取し、コンサートの途中でファンのバイクを乗り回して怪我をしたり、ヘリに乗ってインタビューにやって来た人気DJ(こちらもこちらだが……)に向かって銃をぶっ放すなどやりたい放題。
しかも、ダミ声で投げやりに歌われる〈俺をみつめているか〉や〈悪魔の遊園地〉といった彼の持ち歌は、ロックのなかでもかなり男臭い部類のものだ。
そんなジョンが、コンサートの後でふらりと立ち寄った店で、バーブラ演じるエスター・ホフマンの歌う王道ミュージカル風の美しいバラード曲〈すべてが欲しいの〉に心を奪われたり、後日、ピアノに向かって透明感のある歌声で〈愛に迷って〉を弾き語る彼女とやさしくデュエットしたりするのが信じられない。
そもそも撮影当時、既にブロードウェイのスターだったバーブラによって演じられるエスターが、新人なのに最初からDIVAのような歌唱力の持ち主すぎる! だいたい、初レコーディングで歌うのが前述したリアルに不朽の名曲〈Evergreen〉なのがあり得ない!
さらに気になる点は、この76年版『スター誕生』には、当時ウーマンリブ(女性解放運動)の旗手だったバーブラの主張が色濃く反映されているということ。業界の先輩であるジョンによって見出され、育て上げられているように見えて、実は恋の主導権を握っているのは完全にエスターの側。彼女が(音楽の方向性が違いすぎる)ジョンに惹かれたのも、単に彼が容姿のセクシーな男だったからでは? と邪推できるし、求婚したのも彼女の方から。
象徴的なのは、二人で一緒にバスタブ浸かっていときに、エスターが戯れでジョンの顔にメイクを施して「あなたはカワイイ人」とつぶやく場面。
そしてラスト・シーンでも、過去の『スタア誕生』が悲しみに沈む妻の姿のまま終わるところを、彼女は夫と自分の姓を合体させたエスター・ホフマン・ハワードの名前で毅然とステージに登場し、最後はジョンの持ち歌であった〈俺を見つめているか〉を女性の視点でカヴァーして完成させた〈もう一目、あなたに…/私を見つめていて〉をロックっぽく絶唱し、フィナーレを迎えるのだ。
心を鷲づかみにする名デュエットの数々。既に全米アルバムチャートではサウンドトラックが1位を獲得!
そんな強引な設定の76年版『スター誕生』に対して、『アリー/ スター誕生』では、アリーとジャクソンの目指す音楽の方向性は同じだと感じられる。
アリーは売れっ子になるにつれて、レコード会社の意向によってイマドキなエレクトロ・ポップ路線にも手を染めていくが、彼女の根底にあるのは敬愛するキャロル・キングのような(※部屋にアルバム『つづれおり』のポスターが飾ってある)骨太でアコースティックなシンガー・ソングライター。
ジャクソンも、エッジを効かせたオルタナ系のカントリー・シンガーだが、ナチュラルな声の魅力を大切にしている点では同じ。そんな相性ぴったりな二人を象徴するかのように、劇中は〈ミュージック・トゥ・マイ・アイズ〉や〈アイ・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ〉のような数々の名デュエット曲に彩られている。
また、ラスト・シーンでアリーがジョンに捧げる、極めつけのトリビュート・ソング〈アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン〉も二人の共作であり、劇中では最後にデュエットのスタイルをとっていることがわかるはず。とにかくこの歌唱が壮絶で、観る者すべての心をワシ掴みにするので、絶対にお見逃しなく。ガガさまにとってもキャリア最高のヴォーカル・パフォーマンスといっても過言ではない。
加えて、76年版では主役二人がどのようなバックボーンをもっているのかがよくわからなかったのに対して、今回はアリーの父親や、ジョンのマネージャーでもある兄ボビーなど、2人を取り巻く人物を丹念に描くことで、物語に深みと信憑性を与えることに成功している……そのあたりはブラッドリー監督の手腕が発揮されているのかも。
そして、音楽映画でありながら、人生を変えた恋に思いもよらない運命が待ち受けているという、濃密な王道ラヴ・ストーリーであることにも素直に感動できる。
サウンドトラックは全米・全英ともにアルバム・チャートで1位を獲得し現在も好調なセールスを記録中。既にゴールデン・グローブ賞で作品賞ほか5部門、グラミー賞でも〈シャロウ〉が主要部門を含んで4部門にノミネート。オスカーも最有力。賞レースにおいて前作にどこまで迫れるか(超えられるか)楽しみだ!
※76年版『スター誕生』もBlu-rayなどで発売中のほか、amazonプライム・ビデオなどでも購入/レンタルできるのでぜひこの機会に!
12月21日(金)より全国ロードショー
配給 ワーナー・ブラザース映画
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
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