15年目を迎えたデジタル・コンサートホールで「おうちで深める」ベルリン・フィル
神奈川県横浜市出身。出版社勤務を経て独立後、オーディオ専門誌を中心に執筆。趣味はコントラバス演奏やオペラ鑑賞。近著に「はじめて愉しむホームシアター」(光文社)、「ネッ...
750公演以上のライヴ&アーカイヴ映像
クラシックのインターネット動画は無数に存在するが、その中身は雑多でとりとめがなく、じっくり鑑賞できる演奏にはなかなかめぐり会えない。いっぽう、有料配信の充実ぶりはめざましいものがあり、コンサートに肉薄する濃密な鑑賞体験ができるサービスも増えてきた。
その頂点に位置するのがベルリン・フィルのデジタル・コンサートホール(DCH)である。2009年の創設後、定期演奏会を中心にライヴとアーカイヴ映像を配信し続け、10月初旬時点で視聴可能なコンサートはじつに763公演に及ぶ。いまやベルリン・フィルの演奏会を心待ちにしているのはフィルハーモニーの公演チケットを入手した聴衆だけではない。インターネットでつながる世界中のリスナーもワクワクしながら開演の瞬間を待ち構えているのだ。
週末の習慣に「定期演奏会」鑑賞を
その数はホールの聴衆よりはるかに多いはずだが、多くのファンが同時に接続しても音声が途切れたり画質が劣化することはほぼ皆無。少なくとも筆者は一度も経験したことがない。回線品質が安定しているので、注目度の高いライヴでも安心して楽しむことができるのがDCHが成功した理由の一つだと思う。
さらに、ベルリンの公演は現地時間の夜、つまり日本時間では翌日未明に開演することが多いため、当日20時前後の「時間差再配信」がとてもありがたい。ベルリンで行なわれる定期演奏会を日曜夜に自宅で堪能する。なんと贅沢な習慣だろう。
臨場感あふれる4K映像とハイレゾ音声
今年の新シーズンはレーガー「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」とR.シュトラウス《英雄の生涯》で幕を開けた。指揮はもちろんキリル・ペトレンコ。このプログラムは11月に予定される4年ぶりの来日公演と共通なので、実演を楽しみにしている方も少なくないはずだ。
開幕演奏会ではコンサートマスターに就任したばかりのヴィネタ・サレイカ=フォルクナーが《英雄の生涯》の独奏をあでやかに歌い上げ、強い存在感を示すが、木管やホルンもここぞとばかり情熱的な演奏を繰り広げ、冒頭から終結部までテンションは上がりっぱなし。この曲のここまで温度感の高い演奏はひさしぶりだ。
DCHを観ながらいつも感服させられるのが、的確な撮影アングルとカメラを切り替える絶妙なタイミングだ。同一パート内でもとくに重要なフレーズを演奏する奏者をクローズアップするのは当然として、演奏の流れを妨げずに聴きどころをスムーズにつなぐ映像のリズムがすばらしい。最近になって格上げされた4K映像とハイレゾ音声の恩恵も大きく、ライヴとアーカイヴどちらも演奏家と空気を共有する密度の高い時間が流れる。そこにはほかでは得がたい価値があるというのが、2009年からずっと切れ目なくDCHを観続けてきた筆者の実感である。
来日公演でも演奏予定のブラームスも見逃せないし、マーラー「交響曲第4番」でデビューを飾るロビン・ティチアーティの指揮にベルリン・フィルがどう応えるか、大いに期待が高まる。着実な進化を遂げつつ15年目を迎えたDCHはまさに目が離せない存在だ。
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