12月は第九を聴きながらスパークリングで乾杯! ワインにまつわるベートーヴェンとクリムトの素敵なマリアージュ
ソムリエの資格をもつワインライター、近藤さをりさんの連載第2回は、ベートーヴェンの祖先とワインにまつわる意外なお話でスタート。
家族や気の置けない友人たちと長大な第九とともにゆっくり楽しむワインから、華やかなフィナーレはクリムトとスパークリングワインで乾杯! アンコールには可愛らしい「エリーゼのために」の愛らしい一杯で締めくくる。ベートーヴェンづくしのワイン・ガイドをお楽しみください。
日本ソムリエ協会認定 ソムリエ / ジャパンビアソムリエ協会認定 ビアソムリエ。大学では哲学を専攻。卒業後に渡独し日本企業現地法人勤務を経てワイナリーに転職。帰国して...
ワイン新酒の季節を過ぎると、いよいよ年末。
高校の頃は、毎年12月には仙台ユースシンフォニーオーケストラ(現仙台市民交響楽団)の演奏で各校からの寄せ集め合唱隊の一員としてミサ曲を歌ったことを思い出す。でも、日本の師走はやっぱり第九、ベートーヴェンかな。
前回は1人静かな秋の夜を想定したが、今回は集いの場に相応しいワインを紹介する。
ベートーヴェンの母の出自はワイン銘醸地の名家
ベートーヴェンの父がアルコール依存症だったとか、本人もワイン好きだったとか言われているが、母方の家系がワインと関りがあったことは、あまり知られていない。
ルートヴィヒの生家は旧西ドイツ時代の首都ボンに、母マリア・マグダレーナの生家はモーゼル川がライン川に注ぎ込む合流点の都市コブレンツに残っている。が、もう一代遡るとコブレンツより100km上流のモーゼル河畔の村ケーヴェリッヒに辿り着く。人口わずか355人の小さな村だが、704年には今のルクセンブルクのエヒテルナッハ修道院にブドウ園を寄贈したという記録が残る、ワイン造りの歴史1300年の地だ。今もマリアの父ヨハン・ハインリッヒ・ケーヴェリッヒの生家が現存する。ケーヴェリッヒ家はトリーアの司教と選帝侯に代々仕え、その管轄のブドウ園の管理運営を任されていた名家だった。
ケーヴェリッヒ家のワイン
300年以上続いたゲシュヴィスター・ケーヴェリッヒ醸造所は、1959年より直系の親族レグネリー家によって継承されている。由緒正しい血統の証のベートーヴェンの肖像ラベルを100年以上にわたり使用。
所有者であり醸造家のマルクス・レグネリーはこれを「名誉であり挑戦であり責務でもある」と述べている。14ヘクタールの自社畑で、白ワイン品種リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、ゲヴュルツトラミナーを栽培。年間約12万本を生産している。
1. ゲシュヴィスター・ケーヴェリッヒ・ソーヴィニヨン・ブラン2014年
ベートーヴェンの肖像ラベル。マルクス・レグネリーは、主要ブドウ品種がリースリングのモーゼルでは、この品種の先駆者。料理に合わせやすい爽やかな辛口。
演奏時間が長い第九、フィンガーフードをつまみつつ楽しもう。
2. ゲシュヴィスター・ケーヴェリッヒ・リースリング・エリーゼのために2014年
フュア・エリーゼ(エリーゼのために)という言葉の下に、小さくフォン・エリーゼ(エリーゼより)と書かれたラベル。
楽曲「エリーゼのために」は、悪筆ゆえのテレーゼの誤読という説が有力視されていたが、ウィーンの歌手エリザベート・レッケルに捧げた曲だったという新説が2010年に浮上。この話にインスパイアされた芸術家エリーゼ・ナディーネ・ビルが、名曲へのオマージュとしてデザインした。大曲を弾いた後のアンコール曲として演奏されることも少なくないこの曲。第九を聴いた後にどうだろう? モーゼル特有の白い花の愛らしい香りのリースリングは、短い演奏の間に一気に別世界に連れて行ってくれる。
華やかに弾けたい! だからこのワイン
ドラマチックに盛り上がる第4楽章では、飲み物も高揚感あるそのトーンに合わせたい。見た目も味わいもこれに相応しい一品がある。
3. シュルンベルガー・キュヴェ・クリムト・ブリュット
クリムトの名画《接吻》を化粧箱とラベルに配したゼクト(スパークリングワイン)。
絢爛かつ煌びやかなパッケージに気分が揚がる。1842年創業、オーストリア最古のゼクト醸造所シュルンベルガーの生産で、ハプスブルク家御用達の時代から貫いている伝統的瓶内二次発酵、つまりシャンパンと同じ製法だ。オーストリアのゼクトに多く用いられる品種ヴェルシュリースリングにピノ・ブランとシャルドネもブレンド。柑橘類や黄リンゴの香りに溌剌とした泡の刺激が相俟って、華やいだ気持ちが持続する。
ベートーヴェン・フリーズの場面を思い描いて
この《接吻》のモチーフは、より初期の作品《ベートーヴェン・フリーズ》に見ることができる。クリムトが交響曲第9番に着想を得て縦2.15 m、横幅34mに及ぶ制作した壮大な壁画で、ウィーン分離派会館を飾る。
左「幸福への憧れ」→中央「敵対する勢力」→右「歓喜の歌」と場面が展開し、右端の最後の部分には合唱隊の前で接吻する裸の男女の絵が。歌詞の「Seid umschlungen, Millionen!(抱擁せよ、諸人たち) Diesen Kuß der ganzen Welt!(この接吻を全世界に)」という一節に基づくものだ。
これより前の四重唱では、Küsse gab sie uns und Reben(歓喜は我らに接吻と葡萄酒とを与えた)と歌われている。やはり第九はワインを飲みながら聴くに相応しい。
来春のクリムト展を先取り!
来年4月23日(火)~7月10日(水)に東京都美術館にて《ベートーヴェン・フリーズ》の精巧な複製による再現が見られるクリムト展が開催される。キュヴェ・クリムトのミニボトルがセットになったプレミアムナイト鑑賞券は各回400名で3日間というのに早くも完売という人気ぶり。
でも、大丈夫。この冬、第九を聴きながら、しっかり飲んで予習しておけば、それより数倍楽しめる。
ベートーヴェンの生家、ゲシュヴィスター・ケーヴェリッヒのワイン「エリーゼのために」の詳細はこちら
そのほかのワインは電話にて。Tel. 03-3782-2800
「キュヴェ・クリムト」の詳細はこちら
会期: 2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
休室日: 5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、
6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
開室時間: 9:30~17:30
金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
会場: 東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
お問い合わせ: Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
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