あの指揮者の2世、エマニュエル・チェクナヴォリアンが日本にやってくる! そのヴァイオリン音楽とは?
かつて、アルメニア・フィルとの熱演で人気を博した名指揮者。その子息がウィーンで生まれ、ヴァイオリンとともに育ち、音楽を学び、欧州で数々のオーケストラと共演している。この11月の初来日を前に、若き才能に注目してみよう!
ショスタコーヴィチをはじめとするロシア・ソ連音楽、マーラーなどの後期ロマン派音楽を中心に、『レコード芸術』『CDジャーナル』『音楽現代』誌、京都市交響楽団などの演奏会...
ウィーン生まれ、24歳の新星の出自
2019年秋、エマニュエル・チェクナヴォリアンがはじめて日本にやってくる。
チェクナヴォリアンは1995年ウィーン生まれ、すでにロンドン交響楽団、サンクトペテルブルク・フィル、マーラー室内管弦楽団などとの共演歴をもつ、今注目の若手ヴァイオリニストだ。
……いや、ていうかチェクナヴォリアンってひょっとして……!
そう、彼の父は、アルメニア・フィルを指揮した数々の熱演で知られる名指揮者、ロリス・チェクナヴォリアンだ。とはいえ、彼のCDがコアなクラシック音楽ファンの間で大評判になったのは20年以上前のこと。今はその名を知らない人も多いだろう。というわけで、まずは、エマニュエルの偉大な父、ロリスのことを少し紹介しよう。
ファンの心をつかんだ父、ロリス・チェクナヴォリアン
1937年イランのテヘランに生まれたロリス・チェクナヴォリアンは、ウィーンで指揮を学んだ。指揮の師匠は、かのクラウディオ・アバドやズービン・メータらを育てた名教師、ハンス・スワロフスキーだ。その後、ロリスはテヘランやロンドンで活躍し、ロンドン交響楽団やナショナル・フィルと録音も行なった。
1989年、ロリスはアルメニア・フィルの首席指揮者に就任し、ソ連末期の混乱で荒れていたアルメニアの音楽文化の復興と、アルメニアのソ連からの独立運動に力を尽くす。
1990年代には、アルメニア・フィルとともにハチャトゥリアンらの作品を立て続けに録音し、大きな評判を呼んだ。アルメニア・フィルは一流のオーケストラではなかったが、その音楽に流れる熱い生命力と積極果敢な表現が、ファンの心をつかんだのだ。
2000年、彼はアルメニア・フィルの首席指揮者を退任した。作曲に時間を割きたいからというのがその理由だった。
実は、ロリスはオペラや交響曲、協奏曲など、民族的なスタイルを取り入れた作品をたくさん書いている作曲家でもある。その後の彼は、宣言通り、精力的に作曲活動をするかたわら、ときおり指揮台にも立ち、また絵を描いたり短編小説を書いたり、芸術活動を続けているという。
息子、エマニュエルの音楽を聴いてみた
さて、そんな伝説の熱血指揮者ロリス・チェクナヴォリアンの息子、エマニュエルはどのような音楽家か。ひょっとして彼は、「ヴァイオリン界のロリス・チェクナヴォリアン」だったりするのだろうか。
ともあれ、2017年に出た彼のデビュー・アルバム『SOLO』を聴いてみよう。これは、バッハの《シャコンヌ》にはじまり、イザイ、プロコフィエフ、エネスコなど、大胆にも無伴奏ヴァイオリンのための作品ばかりを集めたアルバムだ。
エマニュエル・チェクナヴォリアンのデビュー・アルバム『SOLO』
結論から言うと、彼の音楽は父ロリスのそれとはだいぶ違う。
まあ、そもそも指揮者とヴァイオリニストを比べるのが乱暴なのだが、ぶっちゃけていうと、エマニュエルのヴァイオリンがうますぎて、ロリスの楽器であったアルメニア・フィルとは比較にならないのだ。
イザイの無伴奏ソナタ第5番、あるいはエルンストの《庭の千草》変奏曲といった難曲でも、彼の技巧は鮮やかそのもの。速いパッセージでもひとつひとつの音がくっきり粒立ち、音色は力強くつやがある。聴いていて実に気持ちいいが、それだけではない。技術の高さは表現の幅を広げる。エマニュエルの演奏は、表情がすみずみまで丁寧に仕上げられているため、音楽がとても濃密なのだ。
情熱的で自由自在な表現
ただ、強いて探すなら、彼の音楽が情熱的で自由だという点は父譲りかもしれない。
エマニュエルの弾く《シャコンヌ》は、ごく自然にテンポが揺れ、深い感情のドラマをみごとに表現する。わざとらしさはまったくない。かと思うと、現代のマルチな音楽家エーレンフェルナーが古い音楽のスタイルを取り入れて書いた《アルプス組曲》では、上品なウィットと現代的なセンスを聴かせる。
まさに自由自在。音楽はロリスと違っても、やりたいことを確信をもってやっているということは同じだ。
現在のところ、エマニュエルはまだ知る人ぞ知るという存在だから、今回は父ロリスとともに紹介したが、次に彼が日本に来るときには、そんな必要のない、誰もが知る現代のホープとなっているかもしれない。彼は、確かにそれだけのポテンシャルを持った、非凡な音楽家だ。
この11月から12月にかけて行なわれる初来日ツアーで、彼は、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスのソナタなどを含む本格的なプログラムを弾く。「ロリスの息子」が果たしてどんな音楽家なのか、自分の耳で確かめるチャンスだ。
日時・会場:
11月28日(木) 18:30開演 野田市文化会館(千葉)
11月29日(金) 18:30開演 君津市民文化ホール(千葉)
12月03日(火) 18:30開演 成田国際文化会館(千葉)
12月04日(水) 18:30開演 千葉県東総文化会館(千葉・旭市)
料金: 全席 4,500円
公演の問い合わせ: MIN-ONインフォメーションセンター Tel.03-3226-9999
詳しくはこちら
日時・会場: 12月1日(日)14:00開演 HAKUJU HALL
料金: 全席指定 5,000円
公演の問い合わせ: プロアルテムジケ Tel. 03-3943-6677
詳しくはこちら
出演: エマニュエル・チェクナヴォリアン(ヴァイオリン)、マリオ・へリング(ピアノ)
曲目(予定):
- J.S. バッハ:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ホ長調 BWV.1016
- L.v. ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ「春」 第5番 へ長調 Op.24
- J.ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 二短調 Op.108
- F.クライスラー:ウィーン風狂想的幻想曲
- F.シューベルト:華麗なロンド ロ短調 Op.70, D.895
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