音楽旅のススメ——ヘンデルやワーグナーを堪能したアムステルダムと、アンダルシア地方での家電見本市「IFA 2019」レポート!
ベルリンで毎年9月に開催される世界最大級の家電見本市 IFAをご存知でしょうか。
それに先駆けて4月にスペイン・アンダルシア地方で開催された「IFA 2019 グローバル・プレス・カンファレンス」を、市民オーケストラでコントラバスを弾くオーディオ評論家、山之内正さんが取材。音楽とオーディオをミックスした旅のレポートをお届けします。9月は読者のみなさんも、そんな趣味三昧の旅を満喫してみては?
神奈川県横浜市出身。出版社勤務を経て独立後、オーディオ専門誌を中心に執筆。趣味はコントラバス演奏やオペラ鑑賞。近著に「はじめて愉しむホームシアター」(光文社)、「ネッ...
アムステルダムとスペインのアンダルシア地方での音楽巡り
10連休に入る1週間前、アムステルダム経由でアンダルシアに向かった。現地で開催される「IFA 2019 グローバル・プレス・カンファレンス(GPC)」(4月25~28日)に参加することが目的だ。
IFA GPCは、毎年9月にベルリンで開催される世界最大級の家電見本市 IFA に先行して開かれるプレス向けイベントだ。50ヶ国以上から約300人の報道関係者が集まるカンファレンスで、私も時間の許す限り参加している。
開催地は、あえてベルリン以外から選ばれるのだが、これまでスペインやイタリアなど南欧が多かった。この時期、ドイツに比べて気候が温暖で快適なことが理由だろう。
今回の開催地は、スペイン南部アンダルシア地方のプンタ・ウンブリア。セビリアに近く、対岸にモロッコを臨むジブラルタル海峡も目と鼻の先だ。イベリア半島南端に位置し、1492年にコロンブスが出港したパロス港も近い。
3日ほどアムステルダムに滞在していたあとで訪れたからかもしれないが、昼間の光線がまったく違う。澄んだ柔らかい光と真夏のような鋭い陽射し。緯度の違いを思い知らされる。
今回、IFA GPCの前にアムステルダムに寄ったのもコンサートとオペラが理由である。復活祭と重なる時期ならではのヘンデル《メサイア》(ピーター・ヤン・ルーシンク指揮オランダ・バッハ合唱団&管弦楽団)と、ワーグナー上演で高い評価を得ているオランダ国立歌劇場の《タンホイザー》(指揮:マーク・アルブレヒト、演出:クリストフ・ロイ)に狙いを定め、3日間滞在。
オランダ・バッハ合唱団&管弦楽団は、少人数ながら合唱の豊かな表現力を引き出した好演。ルーシンクのダイナミックな指揮に刺激されたのか、オーケストラも特に後半は集中した演奏で高揚感を引き出していた。
会場であるコンセルトヘボウは、歌手やオーケストラが無理に力を入れなくても伸びやかな音が広がるため、編成が小さくてもスケールの大きな響きが生まれる。
オランダ国立歌劇場の舞台は、疲弊した騎士タンホイザー以上に、乙女エリーザベトと同僚の騎士ヴォルフラムの親密さや互いの信頼の強さを際立たせる演出が興味深く、それぞれの歌手も声の美しさが抜きん出ていた。最大の聴きどころは合唱の力強さと起伏の大きさで、同劇場のワーグナー上演の高評価にあらためて納得させられた。
IFA GPCの会場があるスペイン・アンダルシア地方へ
家電見本市 IFAのプレス向けイベントへ
GPC(グローバル・プレス・カンファレンス)では、2019年のIFAのテーマや見どころ紹介したり、AV機器から家電製品までさまざまな分野の市場動向など、専門誌やWebサイトの記者に向けた発表が行なわれる。そこでは、世界のテレビ市場やスマホ市場がいまどんな状況にあり、今後どう展開するのかなど、興味深い事実が明らかにされた。
4Kテレビの出荷台数が、欧州や日本だけでなく中国で急速に伸びることや、8Kテレビの今後5年間の需要予測など、テレビの動向を読み解く重要な指標も紹介。
また、AIスピーカーが欧米やアジアで急速に拡大する一方、スマホは台数、価格ともほぼ横ばいという近年の動向も具体的に数字で提示され、説得力がある。
これらのデータは、一部を報道などで目にすることはあっても、ここまで俯瞰できる機会はあまりないし、世界規模で市場動向を読み解くレポートも価値が高い。AV機器やIT関連だけでなく、生活家電の最新動向や技術トレンドもわかり、普段はオーディオやAV機器の記事を書いている筆者には興味津々の内容だった。
家族連れでも楽しめるIFA
2019年のIFAではこれまで例のなかった新しい取り組みが始まる。
その一つは、スタートアップに焦点を合わせたテーマ展示「IFA NEXT」のオフィシャル・パートナー国として日本が選ばれたこと。パートナー国が設定されたこと自体が今回初めなのだが、その重要な役割を日本が担うことに記者たちの関心が集中。経済産業省から現地を訪れた西山圭太商務情報政策局長も登壇し、日本ならではの感性や視点がもたらす革新性への期待を語った。
さらに、IFA2019のグローバル・オーディオ・パートナーとして、1945年創立のドイツの音響機器メーカー、ゼンハイザーが選ばれたことも発表された。
同社CEOのアンドレアス・ゼンハイザー氏がカンファレンスに登壇し、IFAでの展示やサポートを通してブランドを広く浸透させることを強調。特定の企業がパートナーとして認定されるのは珍しく、IFAのサポートによって同社が得るメリットは非常に大きいはずだ。
2019年のIFAは9月6日から11日まで、ベルリン市内西部のメッセベルリンをメイン会場として開催される。見本市というとビジネス向けのイベントというイメージがあるが、長い歴史を誇るIFAは以前から家族連れでも楽しめる工夫を凝らしていて、ライヴやゲームなどエンターテイメントのイベントも少なくない。
9月のIFAはベルリンのコンサートも合わせて楽しんでみては?
音楽ファンなら、9月上旬という時期にもぜひ注目しておきたい。ベルリン・フィルをはじめとする主要なオーケストラやオペラが、この時期から新シーズンを迎えることに加え、世界各地から著名オーケストラやアーティストを招いて開催されるベルリン音楽祭がちょうどこの時期に重なるからだ。
筆者も見本市の取材やメーカー訪問などで海外に出かけるときは、現地や経由地の演奏会情報を調べ、時間の許す範囲でコンサートやオペラに出かけるのが30年くらい前からの習慣なのだが、その最大のイベントがIFAなのだ。
昨年もベルリン・フィル、ボストン交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団など複数のコンサートにほぼ毎日足を運び、他では味わえない充実した時間を過ごすことができた。IFA視察や遅めの夏季休暇を活用し、ベルリンで音楽三昧の計画を立ててみてはいかかだろうか。
日程: 8月30日(金)~9月19日(木)
プログラム(抜粋):
9月1日 ユロフスキ指揮ベルリン放送交響楽団 R.シュトラウス:影のない女
9月2日 ソヒエフ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 チャイコフスキー:交響曲第1番 ほか
9月5日 オラモ指揮BBC交響楽団 シベリウス:交響曲第5番 ほか
9月7日&8日 エトヴェシュ指揮ベルリンフィル、イザベル・ファウスト エトヴェシュ、クセナキス ほか
9月10日 ゲルギエフ指揮ミュンヘンフィル ブルックナー:交響曲第6番 ほか
9月11日 ラトル指揮ロンドン交響楽団 メシアン:彼方の閃光 ほか
9月12日&13日 ハーディング指揮ベルリンフィル ベルリオーズ:ロメオとジュリエット
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