イベント
2022.03.18
神奈川県立音楽堂/春の特集「ホールの1年間」

新しさのあるアイデア企画を歴史ある“木のホール”で楽しめる!〜神奈川県立音楽堂

神奈川県立音楽堂は、ル・コルビュジエの弟子で、モダニズム建築の旗手として活躍した前川國男による設計で、1954年に開館。以来、この“木のホール”には、多くの世界的なアーティストが登場しています。来たるシーズンも、大物が控える一方で、誰でも気軽に楽しめる企画もあるようです。プロデューサーに聞きました!

聞き手・文
片桐卓也
聞き手・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

神奈川県立音楽堂の外観。©️畑亮

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紅葉坂を上がったエリアに立つ重要文化財のホール

片桐 JR根岸線の桜木町駅を利用して神奈川県立音楽堂に来るのですが、紅葉坂を登ると、やはり息が切れます。でも、この坂を登ったら、素晴らしい何かが待ち受けている、そんな気持ちで自分を奮い立たせています。ちょっと大袈裟かな。

井上 ありがとうございます。神奈川県立音楽堂で開催されるコンサートはもちろんですが、最近では建物自体に興味を持って見に来られる方も多くなりました。戦後日本を代表する建築家・前川國男の設計で、2021年には神奈川県指定重要文化財となりました。

神奈川県立音楽堂の事業担当主幹、プロデューサーの井上はるかさん。©️ヒダキトモコ

片桐 歴史あるコンサートホールなので、ここで名演を繰り広げた伝説のアーティストもたくさんいますね。そして歴史を大事にするだけでなく、常に“攻めた”企画が多いと感じます。

井上 今シーズンもかなり意欲的な企画が多いのですが、やはり新型コロナウイルスの流行で延期になってしまい、そのリベンジ、という意味合いを持つ公演も多くなりました。

片桐 例えば、ヘンデルのレアなオペラ《シッラ》ですね。

井上 これは開館65周年を記念して2020年の2月に上演される予定で、もうセットも建て込み、舞台リハーサルをしようという直前まで行っていて、延期になってしまったのでした。

片桐 本当に残念でした。神奈川県立音楽堂のFacebookなどでも盛んに情報が発信されていたので、拝見するのが楽しみだったのですが。

2020年にリハーサルまで行なっていたヘンデルのオペラ《シッラ》についての投稿

井上 指揮のビオンディも本当にこの上演に意欲的で、演出の彌勒忠史さんも歌舞伎にヒントを得た演出プランを準備していました。その稽古の過程で、面白い発見もありました。エアリアル(注・シルク・ド・ソレイユが発明した舞台テクニックのひとつで、布を使って舞台上部から人が降りて来る)を取り入れようとしたのですが、開館当時からの舞台機構で、舞台上部の天井と一体になった木の反響板に丸い穴が開いていて、これは使える、と。

片桐 60年以上経つと、実際に使っていても、知らない何かがある、という感じですね。でも、バロック時代のオペラの雰囲気は、そうした謎に満ちた(?)神奈川県立音楽堂にぴったりだと思います。

対談した音楽評論家の片桐卓也さん。

新しい音楽、新しい企画に積極的に取り組む

井上 作品自体も謎に満ちていて、だからこそビオンディが力を入れて再演に努力しています。ぜひライブで体験していただきたい作品ですね。

今シーズンは、もうひとつ“リベンジ企画”の大物がありまして、それがクロノス・クァルテットによるテリー・ライリー1935〜)「サン・リングズ」日本初演です。テリー・ライリーの「サン・リングズ」はNASAの依頼によって書かれた、弦楽四重奏と合唱、電子音響と映像のための組曲です。

横浜での演奏に際しては、神奈川・東京を拠点として活躍する合唱団「やえ山組」に参加していただく予定です。

片桐 クロノス・クァルテットも、来日すれば17年ぶりとなるはずでしたね。でも、202010月には映像配信によるクロノス・クァルテットと「やえ山組」による特別セッションを拝見することができました。それを観て、やはりこれもライブで体験しなくてはと思ったコンサートです。

クロノス・クァルテット『テリー・ライリー:サン・リングズ』

片桐 そのほかの「音楽堂ヘリテージ・コンサート」も豪華なラインナップです。

井上 9月の公演ではチェロのスティーヴン・イッサーリス、11月はヴァイオリンのヴィクトリア・ムローヴァ2023年3月になりますが、レ・ヴァン・フランセ(フルートのパユ、クラリネットのメイエなどが参加する管楽器アンサンブル)も、きっと満足いただけるコンサートになると思います。

片桐 個人的には、イッサーリスを久しぶりに聴くことができるのが楽しみです。

井上 彼の祖父であったユリウスの作品をはじめ、ショスタコーヴィチなどロシアの作曲家に焦点をあてたコンサートで、その点でも興味深いですね。

片桐 他にも楽しそうな企画がありますね。

井上 皆さんに新しい音楽にも出会っていただきたいと考えていて、次代を拓く気鋭のアーティストを探そうという「シリーズ 新しい視点〈紅葉坂プロジェクト〉」が開催されます。公募したアイデアを企画委員(一柳慧、沼野雄司、鈴木優人)が審査し、選出された企画はワーク・イン・プログレスなどを通して磨き上げられ、2022年7月2日に音楽堂で行なわれる本公演で披露されます。

音楽堂を探検するようにパフォーマンスを楽しむ

片桐 この記事がアップされる時期には2022年版は終わってしまっていると思いますが、音楽堂全体を使った「音楽堂のピクニック」も興味深い企画です。

井上 2022年3月1819日開催の公演では、「子どもと大人の音楽堂<大人編>」として13時から1830分という長い時間になりますが、弦楽四重奏でお迎えして、バックステージ・ツアーへ。さらにはアイヌの影絵から邦楽、ジャズまで、現代の日本で活躍するさまざまなアーティストが登場して、音楽堂全体でパフォーマンスを繰り広げます。

クラシック音楽だけにとらわれず、また音楽にあまり興味がないという方にもきっと楽しんでいただける企画ですので、前川建築の傑作である神奈川県立音楽堂を探検する気持ちで気軽に参加していただきたいです。

片桐 新しい発見がまだまだありそうです。

井上 8月には「子どもと大人の音楽堂<子ども編>」も予定しておりますので、ご期待を。

片桐 主催は神奈川フィルハーモニー管弦楽団ですが、定期演奏会である「モーツァルト+」シリーズも楽しそうですし、また紅葉坂を登る機会が増えると思います。

神奈川県立音楽堂

[運営](公財)神奈川芸術文化財団

[座席数]1054席(固定席966、可動席88)、立ち見52人

[オープン]1954年

[住所]〒220-0044 横浜市西区紅葉ケ丘9-2

[問い合わせ]Tel. 045-263-2567(代表)

https://www.kanagawa-ongakudo.com/

聞き手・文
片桐卓也
聞き手・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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