イベント
2023.06.06
8月17日(木)~30日(水)開催/マスタークラス受講の申込期間は6月9日(金)~20日(火)

草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル~世界的音楽家と音楽を分かちあう場所

1980年に日本初の本格的な夏の音楽アカデミーとしてスタートした「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」は、美しい自然の中で世界的音楽家の指導を受け、その演奏を聴くという、贅沢で格調高い音楽祭。西洋音楽の伝統の厚みが体感できる独自のプログラミングも魅力の一つだ。この音楽祭を「世界に向けた活動」と語る音楽監督の作曲家・西村朗氏に、今年43回目となる音楽祭の講師陣や聴きどころ、これまでの歩みについて伺った。

ききて・まとめ
西村 祐
ききて・まとめ
西村 祐

音楽レヴュアー・フルート奏者。桐朋学園大学中退。演劇、モダンダンス、日本舞踊などの公演に音楽制作・フルーティストとして多く出演。評論家・レヴュアーとしては、『レコード...

今年の「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」のポスターを手にする音楽監督の西村朗氏 写真:各務あゆみ

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西村朗(にしむら・あきら):大阪市に生まれる。東京芸術大学卒業。同大学院終了。西洋の現代作曲技法を学ぶ一方で、在学中よりアジアの伝統音楽、宗教、美学、宇宙観等に強い関心を抱き、そこから導いたヘテロフォニーなどのコンセプトにより、今日まで多数の作品を発表。日本音楽コンクール作曲部門第1位(1974)、エリザベート国際音楽コンクール作曲部門大賞(1977・ブリュッセル)、ルイジ・ダルッラピッコラ作曲賞(1977・ミラノ)、尾高賞(1988・1992・1993・2008・2011)、京都音楽賞[実践部門賞](1991)、第3回別宮賞(2002)、第36回(2004年度)サントリー音楽賞、等を受賞し、2013年紫綬褒章を授与される。1993~94年、オーケストラ・アンサンブル金沢、1994~97年、東京交響楽団の各コンポーザー・イン・レジデンス。2000年よりいずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督を務める他、2010年草津夏期国際フェスティヴァルの音楽監督に就任。2007年東京オペラシティ「コンポジアム2007」のテーマ作曲家となり、ピアノ、室内楽、管弦楽作品が演奏され、武満徹作曲賞の審査委員を務め話題となる。近年海外においては、ウルティマ現代音楽祭(オスロ)、アルディッティ弦楽四重奏団、クロノス・カルテット、ラジオ・フランス等から新作の委嘱を受ける他、ウィーン・モデルン音楽祭、「ワルシャワの秋」現代音楽祭、等において作品が演奏されている。この他、2009年ガウディアムス(アムステルダム)国際作曲コンクールの審査委員を務め、音楽週間において作品が演奏される。現在、東京音楽大学教授。

アカデミーが核の音楽祭

――この音楽祭は「アカデミー&フェスティヴァル」という名称ですが、具体的にはどのようなものでしょうか。

西村 まず「アカデミー」という部分をひじょうに重要に考えています。アカデミーの講師として教えに来てくださる先生方の演奏を実際に聴いてみるということで、あとからフェスティヴァル化してきたものです。

音楽祭が始まった当初はコンサートができるホールもありませんでしたが、「草津音楽の森国際コンサートホール」という608席の素晴らしい音響の会場ができたことによって、フェスティヴァルのお客様(=聴衆)に対する受け入れが可能になった。そのことで、「演奏」ということに対する催しの意味が以前よりも深まり、大きくなったと言えると思います。そうなってからでも30年以上経っているのですが。

清々しい自然の中に佇む草津音楽の森国際コンサートホール。開演前に演奏されるアルプホルンは、音楽祭名物の一つだ©林喜代種

――アカデミーを受講なさる方はどのような方が多いのでしょうか。

西村 若い人ばかりとは限りません。とくに今回はヴァイオリンの講師として世界的ヴァイオリニストであるシュロモ・ミンツさんが初めていらしてくださるので、すでに演奏活動をなさっている方も受講されるのではないでしょうか。

同じ曲を指導してもまったく違う個性的な先生揃い

――レッスンはどのような感じで行なわれるのでしょうか。

西村 指導する先生それぞれがすごく個性的です。たとえばヴァイオリンでもイタリアの先生の場合とドイツ系の先生では、同じ曲を指導していたとしてもまったく違うんですよ。両方見て回ると、もう唖然とするくらい違います。先生方それぞれのキャラクターがおもしろいですし。

よくわかるのは、大演奏家はみんな音楽が本当に大好きだということ。そして常に喜びをもって音楽をやっていることですね。義務でやっているような人はいない。そういうところも非常に勉強になりますね。

タマーシュ・ヴァルガ(チェロ/ウィーン・フィル首席奏者)のマスタークラスの様子。ヴァルガは 「タマーシュ・ヴァルガ チェロ・リサイタル/ ドヴォルジャーク、スーク、ブラームス」(8/25)他に出演©林喜代種

アカデミーは限られた短い期間に集中して指導しますから、自分の思っていることを、先生方は一気に伝えようとする。そのレッスンを見ているのはとても刺激的です。音楽祭ではおなじみのドイツのオーボエ奏者、トーマス・インデアミューレさんなんか本当に面白いですよ。歩き方から指導したりしますからね(笑)。

今回が草津初登場となる世界的ヴァイオリニスト、シュロモ・ミンツ。ドイツ・グラモフォンのメインアーティストとして一世を風靡した氏は、ピアノの巨匠ブルーノ・カニーノとブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を行なう(8/19)©Andrei Birjukov

トーマス・インデアミューレ(オーボエ/パリ・エコール・ノルマル音楽院教授)も草津ではおなじみ。「18世紀のプラハとウィーン/ フルートとオーボエによる室内楽」(8/23)等に出演

今年の音楽祭のテーマ「ドヴォルジャークとブラームスの出会い」は今の世界情勢にも通ずる

――そのような演奏家の方が、期間中毎日コンサートをなさるわけですね。今年のテーマは「プラハとウィーン 二つの楽都 — ドヴォルジャークとブラームス」です。

西村 「カレル橋でドヴォルジャークとブラームスが出会う」という設定が今年の音楽祭のテーマです。ドヴォルジャークにしてみれば、ブラームスは作曲家としてのデビューの形を作ってくれた大恩人です。逆にブラームスにしてみれば、ドヴォルジャークという存在に、絶対音楽、とくに室内楽で大きな期待をしていた。さらにあのメロディーの発明力というのは、ブラームスから見れば、これぞまさに天才だというくらい素晴らしいものがある。それと作曲の技術の高さという点でも、大きな信頼を置いていたと思います。

 

「ドヴォルジャークの《スターバト・マーテル》が、音楽祭の最初の日曜日(8/20)に日本合唱界の巨匠・栗山文昭が指揮する草津アカデミー合唱団、ポーランドを代表する指揮者アントニ・ヴィット指揮の草津フェスティヴァル・オーケストラ、天羽明惠(S)らのソロで上演されます。涙なくしては聴けない、ドヴォルジャークの一大名曲です」

チェコ=ボヘミアとウィーンですが、ウィーンから見ると、ボヘミアは(地理的には少し西ですが)東側の文化圏になります。今回はウィーンを拠点とするようなプログラムが多いのですが、ボヘミアのいろいろな作曲家の作品も聴くことができます。

地図で見ると、ウィーンからドナウ川が黒海へ流れ出る。すると黒海に面してウクライナがもうすぐ隣にあるわけです。そのウクライナがいま悲劇の中にある。日本では自由に音楽祭ができるけれど、やってきてくれる先生方はヨーロッパの先生が多くて、ウクライナとは本当に近いんですよね。そのことも思いながら、アジア/日本という場所で、西洋の文化圏の音楽をやっているということの意味を考える。これこそ世界に向けた活動だと思うのです。

珠玉のコンサートをリゾート地で楽しむ至福の時間

西村 プログラムでまず注目なのは、やはりミンツさんでしょう。ブラームスのソナタ3曲を音楽祭ではおなじみのブルーノ・カニーノさん(88歳!)と一緒に全部やる。これはひじょうに強く印象に残る演奏会になるだろうなと思っています。他では聴けない珠玉のコンサートになる。

また今回は音楽祭にも関係の深いパノハ弦楽四重奏団へのオマージュでもあります。主宰のパノハさん(イルジー・パノハ、第一ヴァイオリン)ご自身は演奏活動を徐々に停止しているそうで、今年はヴィオラのセフノウトカさんがいらっしゃいます。この四重奏団はたとえヤナーチェクであっても音楽がエレガントで優しく、それでいながら物足りなさは感じない。そんな彼らへの感謝や思いが深くあります。

パノハ弦楽四重奏団は、チェコが誇る代表的な弦楽四重奏団の一つ。今回はリーダーのイルジー・パノハの来日が健康上の理由により叶わず、「ドヴォルジャークの室内楽/ドヴォルジャーク:弦楽四重奏曲《アメリカ》~パノハ弦楽四重奏団へ感謝をこめて」(8/29)には、ヴィオラのミロスラフ・セフノウトカがメンバーを代表して出演する©林喜代種

他では聴けないプログラミングの陰にオットー・ビーバ博士の存在

――また、今回のプログラムでは管楽器のための作品が多く取り上げられているように思います。とくにフルートとオーボエによる室内楽が集中的に聴ける日がありますが、ほとんど知られていない作曲家ばかりですね。

西村 19世紀初めに書かれた作品たちですが、ひとつの作品に出会うと、その周辺に興味がいく。僕は昔、「残っていない曲」って、それだけの理由があると思っていたんです。でも意外にそうでもない。不当に忘れられている作品というのもけっこうたくさんあることがわかりました。

モーツァルトひとりのために、同時代のおそらく数千の作曲家が消されてきたかもしれないですが、その中に忘れられるには惜しい作品、モーツァルトにも負けていないなと思われる作品も見つかるのです。

――草津では珍しい作品が取り上げられることも多いと思うのですが。

西村 ウィーン楽友協会アーカイヴ(図書館)の元館長だったオットー・ビーバ博士がひじょうに支えてくださるんです。そのアーカイヴにはいろいろな音楽資料や楽譜が無限にあるのではと思うほどあります。ちょっと普通では見ることができない、聴くことができない作品群というのをたくさん持っていて、伝統の厚みがすごいんですよ。

ウィーン楽友協会アーカイヴ(図書館)の元館長、オットー・ビーバ博士。博士の存在が、この音楽祭ならではの懐の深いプログラミングを生み出す

普通の音楽祭では、代表的な作曲家や名曲を取り上げるだけでほとんど済んでしまうのですが、ビーバ博士を通して、背後にあるものがすごいからこそ、それらが成り立っているのだということがよくわかりますし、その世界を知り尽くしている先生だから、ひらめくようなプログラミングができるのでしょう。先生のような存在が、こうした場所に知性と教養と理想を託してくださるのは、たいへん光栄なことです。

毎年のように音楽祭にいらした上皇后・美智子さま

――今まで関わってこられて、印象的なエピソードなどありましたら

西村 残念なことにピアニストの遠山慶子先生が一昨年亡くなられましたが、先生は毎年のようにいらしていた上皇后・美智子さまと本当に姉妹のようでした。あるとき美智子さまがイタリアの声楽家、G.ベルタニョッリさんとご一緒に演奏されたことがありましたが(R.シュトラウスの《Morgen!》)、絶句するほどに美しく、それを慶子先生が横で微笑みながら聴いておられた光景に、かつてないほど大きな感動を受けたことを覚えています。

草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルの会場は広々とした美しい自然に囲まれている。音楽家も受講生も聴き手も、何ものにも妨げられず、音楽だけに没入できる理想的な場所 ©草津夏期国際音楽アカデミー事務局

――ぜひ多くの方に草津へおいでいただきたいですね。

西村 そうですね。多くの演奏家や作品が登場しますから、できれば1日のコンサートだけではなくて、何日か続けて聴いていただけると嬉しいです。そうすることで、いろいろな音楽の繋がりが見えてくると思いますから。

――ありがとうございました。

第43回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル

テーマ:プラハとウィーン 二つの楽都ーブラームスとドヴォルジャーク

 

日程:2023年8月17日(木)~30日(水)

 

会場:草津音楽の森国際コンサートホール、草津温泉スキー場天狗山レストハウス

 

マスタークラス申込期間
合唱クラス:6月1日(木)12:00~12日(月)17:00

マスタークラス:6月9日(金)12:00~20日(火)17:00
長期聴講:6月9日(金)12:00~7月31日(月)17:00

 

コンサート:8月17日(木)~30日(水)16:00~18:00

 

公開レッスン:8月23日(水)~28日(月)13:15~15:00

 

出演者:アントニ・ヴィット(指揮/クラクフ・フィル桂冠指揮者)/矢崎彦太郎(指揮)/栗山文昭(合唱指揮/武蔵野音楽大学特任教授)/ブルーノ・カニーノ(ピアノ/元ミラノ音楽院教授)/岡田博美(ピアノ/桐朋学園大学院大学教授)/クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ/ウィーン国立音楽大学教授)/カリーン・アダム(ヴァイオリン)/シュロモ・ミンツ(ヴァイオリン)*初参加/ミロスラフ・セフノウトカ(ヴィオラ/パノハ弦楽四重奏団メンバー)/タマーシュ・ヴァルガ(チェロ/ウィーン・フィル首席奏者)/ディーター・フルーリー(フルート/元ウィーン・フィル首席奏者)/トーマス・インデアミューレ(オーボエ/パリ・エコール・ノルマル音楽院教授)/クラウディオ・ブリツィ(オルガン、チェンバロ、通奏低音/ペルージャ音楽院教授)/天羽明惠(ソプラノ)/日野妙果(メゾソプラノ)/村松稔之(カウンターテナー)/群馬交響楽団(オーケストラ)/高橋アキ(ピアノ)/他

 

第43回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル公式HP

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